広告

露出を極める8つのポイント - カメラマン必須の知識

露出を極める8つのポイント - カメラマン必須の知識

keep-calm-and-fix-it-in-post

この記事は日本語サイト開設前、2015年3月に英語サイトで投稿されたものです。

撮影で失敗しても、「ポストプロダクションで何とかなるさ」と我々はよく冗談を言うが、なかなかそうはいかない。カラーコレクションをするにもライティングと正しい露出の知識が必要だ。ここでは、後で後悔しない、正しい撮影方法について解説する。

(注釈)“Keep calm”とは「あわてるな」「落ち着いて」と言った意味で、イギリスが第二次大戦時に“Keep calm and Carry on”「くじけないで頑張ろう」と国民を励ましたフレーズ。その後”Keep calm and”の後に色々な言葉を付けた標語やパロディーが作られた。一方”Fix it in post”は、映像制作者向けに書かれた本で、ポストプロダクションでの修正や補正について解説されている。上記の”Keep calm and Fix it in post”は、これらを使ったパロディーで、撮影でミスしても「ポストプロでなんとかなるさ」という意味。これをプリントしたTシャツがNABで販売された。

何も考えないで撮影に没頭していると後で後悔する。後処理で補正できないこともあるからだ。最近では様々な補正ができるようになってきたので、論理を知らなくても創造力があれば良い、という風潮があるが、決してそうではない。どちらも必要だ。

以下にそれぞれの要素をどのようにコントロールするかを説明するが、その前にもっと基本を解説しておくことにする。

1.光

光とは何か?

もちろん、それは明るさと色の情報で、これらはカラーグレーディングでコントロールできるものだ。しかし、その前にもう一つ基本的なことを知っておこう。

まず、光はカメラで映像として取り込まれる。可視光は電磁波のエネルギーだ。電磁波は電磁気学の基本的な現象で、波であり、光子と呼ばれる粒子でもある。

光子は質量が無く、帯電もしていないが、光電効果と呼ばれる現象を見せる。例えば、光源から照射された光子は、ある種の電気的な特性を持った板に当たると電子を放出する。

sensor

電子は帯電しており、従って、計量化することができる。これがイメージセンサーの仕組みだ。イメージセンサーは高精度の電子カウンターと言える。センサーには小さな画素が整然と並んでおり、各画素は深さと面積を持つ井戸と見なすことができる。深く広い井戸(画素)ほど、より多くの電子を捕捉することができる。

4Kのベイヤーセンサーは4096×2160の素子が並んでいるが、これは8,847,360個の画素があるわけだ。実際にはもっと多いのだが、ここでは理解し易いように簡単にした。

2.逆二乗則

ライティングと露出からポストプロダクションに至るまで、全てに影響してくる概念が逆二乗則、即ち「距離の二乗に反比例」の法則だ。

イメージセンサーは光の強さに反応する。物体の明るさは、光源から発せられた光が、逆二乗則に従ってその物体に到達する光の強さだ。即ち、光の強さは距離の二乗に反比例している。

光の強さは、距離に比例して低下するのではない。光源から2倍の距離にある物体は、1/4の光しか受けないのだ。

3stop

“stop”という単位は紛らわしい言葉だが、レンズを通過する光量を制限する絞りを数値化したものだ。これは、レンズの焦点距離と絞りの直径の比で表される。例えば、レンズの焦点距離が50mmで、絞りの直径が25mmとすると、F値は2で、絞りはf/2と表記される。

レンズの絞り値は共通で、f/1、f/1.4、f/2、f2.8、f/4、f/5.6、f/8、f/11、f11、f16、f/22といった数値で表されるが、これは2の累乗の平方根である。言い換えれば、光の強さの対数表示なのである。

Zeiss_Aperture

“stop”は入光量の比を表し、増えていく場合は2倍ずつ、減っていく場合は1/2ずつとなっている。”stop”はまた、露出やEVの単位としても知られている。

レンズの絞りや照度計で計測して露出を決めるということも、このstopに基づいている。

 

4.ダイナミックレンジ

ここまで理解したなら、ダイナミックレンジについても理解できるだろう。カメラメーカーは使用しているセンサーのダイナミックレンジを引用している。これはイメージセンサーが、大きく起因しているからだ。

ダイナミックレンジとは、イメージセンサーが受けることのできる明るさの範囲だ。stopやEVで表されるが、1stopで光の強さが2倍になるということを思い出してほしい。

12stopのダイナミックレンジを持つセンサーというのは、ブラックからホワイトまで4096倍の光量を受けることができるということだ。即ち、最大のコントラスト比は4096:1だ。13stopのダイナミックレンジはこの倍で8192:1、14stopは、更にこの倍で、16,384:1ということになる。

7 stops DR – 128:1
8 stops DR – 256:1
9 stops DR – 512:1
10 stops DR – 1024:1
11 stops DR – 2048:1
12 stops DR – 4096:1
13 stops DR – 8192:1
14 stops DR – 16,384:1

最小値以下の光量では全て黒として、最大値以上の光量は全て白として記録される。この値を超える場合、被写体があってもデータとして記録されることはない。これが、黒つぶれや白とびだ。

5.ログガンマ

人間の目は、ハイライト部よりも暗い部分や中間の部分のほうが変化に敏感だ。人間の目はリニアではない。もちろん明るさを感じる範囲の限界はあるが、暗い部分や中間照度部に合わせて瞳を開いていても、ハイライト部もある程度見えている。

しかし、イメージセンサーは明るさに対してリニアな特性を持つ。従って、入力する光と記録する値を調整する機能が必要になる。この機能は「曲線」で実現できる。

これがガンマカーブで、カメラのセンサーから入力される光のリニアな変化を、実際に記録される出力に適切に変換しているのだ。

ガンマカーブにより、低照度や中間照度といった重要な部分に重点を置き、あまり変化量が分からないハイライト部の情報は減らすことができる。下はガンマ補正を行う前と後の映像サンプル。

Blackmagic DesignのURSAで、フィルムモード、RAW CinemaDNGで撮影している。

RAK-Sailing-Log-Compare-01-Small

RAK-Sailing-Log-Compare-03-Small

Arri Alexaのショット。ProResで記録

Inside-Log-Compare-03-Small

Inside-Log-Compare-04-Small

RED R3Dのショット

Inside-Log-Compare-05-Small

Inside-Log-Compare-06-Small

補正前の映像は平坦で霞がかかったように見える。イメージセンサーが異なるので、それぞれのカメラでルックが違って見えるが、いずれにしてもカラーコレクションの前は不自然さがあるが、補正後は低照度や中間照度部は美しく再現されている。

6.露出

撮影される映像の各フレームは静止画であり、その静止画は一定の時間に各画素に取り込まれる電子によって作られている。センサーは各画素で捉えた電荷をeVまたはelectron voltsとして表わし、これが露出となる。なお、eV(electron volts)はEV(exposure value)とは別のものである。

イメージセンサーは光に対してリニアに反応するので、光の強さが増すと、各画素のeV (electron volt)もリニアに増加する。一方EV(exposure value)は対数で表現されるので、光量が2倍になるとEVが1単位上がる。

また露出時間はフレームレートとシャッター角度(シャッタースピード)によって決定される。

例えば24fpsで撮影する場合は、露出時間は最大1/24秒ということだ。そして180°のシャッター角度にすると、これは全開(360°)の半分だから、露出時間は1/24秒の半分の1/48秒と言うことになる。

そして、更に重要な要素はISOである。イメージセンサーはネイティブISO、あるいはベースISOと呼ばれる値を持っている。これはそのセンサーが持つ本来の(増幅されていない)感度で、そのセンサーが持つ唯一の感度と言ってよい。

カメラでISOを上げるということは、センサーの露光量が十分でないまま、その出力を増幅しているということになる。このときノイズも増幅されてしまっているのだ。

正しい露出と言うのはもちろん主観的なもので、撮影の対象によって決まってくる。一般的にはハイライト部が露出オーバーにならないように露出を決める。(太陽や極端にハイライトなものがあれば別だが)。また最も暗い部分(暗いが被写体を見せたい部分)はセンサーのノイズに埋もれてしまわないように露出を設定する。

ただし、これらの状況は極端な場合で、普通は明るさの範囲はこれらの間に収まる。

例えば曇った日中に屋外で撮影するとしよう。撮影する明るさの範囲は、おそらくセンサーの持てる範囲よりもはるかに狭い範囲だ。この場合、中間の明るさはどこだろうか?これには、ミドルグレーと白のカードが役に立つ。ミドルグレーと白のカードを使って、正しい露出を求めることができるのだ。

Basic RGB

各カメラのログカラースペースは、かなり異なったガンマカーブを持つので、ここでは平均的なカーブで説明する。ミドルグレーのカードは18%の反射率を持ち、波形モニター上では約40%IREになる。もし波形モニターが無ければ、ゼブラを使用しても良い。ゼブラを40%にセットしてミドルグレーのカードを撮影すると、ゼブラが現れるところが40%だ。白のカードは90%の反射率で同様に60%のIREとなる。波形モニターや照度計があれば良いが、無くてもゼブラで代用できるのだ。

Screen Shot 2015-03-21 at 5.22.08 PM

上のショットは、自分が露出に苦労したときのものだ。ここは森の中の石造りの家で、夜に撮影している(かなり寒い)。明かりは近くの暖炉と唯一明かり取り用のオイルランプのみだった。スキントーンはミドルグレーカードと同じにしたかったが、それはResolveのヒストグラムからも見て取れるように、かなり暗かった。このとき、もしそのまま撮影して単純にグレーディングしていたら、恐らくノイズで使い物にならなかっただろう。

Screen Shot 2015-03-21 at 5.24.18 PM

レンズの絞りは既に全開だったが、ISOは上げたくなかった。従って、できることは間接光を明るくして、スキントーンを40%~50%IREの間に持っていくことだった。このときのヒストグラムは、かなり良くなっている。理由は、輝度のレベル範囲は極めて狭く、スキントーンよりも明るい部分が少なかったからである。

ノイズの少ない映像にするためには、センサーに十分な光を入れるのが最善の策で、できれば多少露出オーバー気味の方が良い結果が得られる。もしセンサーが広いダイナミックレンジを持っているなら、上記のミドルグレーは6stop程度なので、ポストプロダクションで露出を下げると暗部でノイズの少ない映像を得られる。

これらのことはETTR (Expose to the Right)とも言われているが、これはヒストグラムを見て、全体を少し右に寄せると良い結果になるという意味である。どれくらい“多少”なのかはセンサーによるのだが、ベースISOで、ミドルグレーの上下にどの程度stopがあるのかを見て判断すると良いだろう。

いずれにしてもカメラのダイナミックレンジを超えてコントロールすることはできない。しかし、照明をコントロールすることはできるし、暗部とハイライトの比、即ちコントラストをコントロールすることもできる。

ライティングと撮影術を向上したいなら、照度計を使うことをお勧めする。

照明をコントロールすることは、美しい映像表現をするのに欠かせない。

どうも最近では、既存の照明だけで撮影する風潮があるが、センサーの特性を最大限に生かす意味では、良くない傾向である。

また、高ISOのカメラに頼る傾向は、クリエイティブな照明を軽んじることにつながる。

7.ライティングレシオ

MATM-Reflector-Fillライティングレシオと言うのは、キーライト(主光源)とフィルライト(補助光源)の比で、良く用いられる比だ。これはシーンの中で照明をあてた被写体があり、ハイライトとシャドウがある場合重要なものだ。

シャドウとハイライトの比を知ることが重要で、この比は(主に照度計で計測できるが)、カメラのダイナミックレンジを超えないことが重要だ。

MATM-Frame

照明は、被写体の表現において重要な役割を果たす。強い照明と弱い照明でコントラストが作られる。より強調したコントラストも、バランスの取れた自然なコントラストも、自由につくりだせるのだ。

 

簡単なレフで、キーライトとフィルライトの比をコントロールすることができる。

ポストプロダクションでどのような処理をするのかを考えておくことも重要だ。カラリストは与えられた映像でだけで仕事をしなければならない。全ては現場で決まってしまうのだ。

8.ガンマとゲイン

最終的にはデジタル映像は輝度信号と色信号に行きつく。

照明の比率とセンサーのダイナミックレンジを頭に置いておけば、正しい撮影ができる。即ち、ポストプロダクションで処理する必要は無いわけだ。

もしシャドウのディテールや中間トーンやハイライトが全てあるべきところにセットされておれば、色補正やその他の補正もうまくバランスして行えるだろう。

しかし、最終的な色補正がされた映像とは何だろうか?それは輝度レベルのバランスであり、色補正の基本のひとつなのだ。

私がいつも使っているのは、“アンセル アダムスの10ゾーン露出システム”だ。これは写真の世界で、長年世界中で使用されてきた。これは今でも十分使える技術だ。Ferdinand Hurter と Vero Charles Driffieldの感度測定の研究に基づいて、このシステムは正しく露出されたネガから正しく印刷するための基本とされている。システムはデジタルを含め全ての写真に適用することができる。

システムは黒から白を10のゾーンに分け、映像の各部にこれをあてはめることで露出を決めるというものだ。下の写真(Into The Wildより)で、ゾーンを説明するためにマークされている。色情報は必要なく、輝度情報のみで表現されている。

Into_The_Wild_AA_Luma
1 – ほぼ黒。わずかに階調があるが質感は無い
2 – わずかに質感のある黒。
3 – かなり暗いグレー。はっきりした影十分な質感を持つ
4 – 少し暗いグレー。黒目の肌、暗い群葉、風景の影など
5 – ミドルグレー, 18% グレー、濃い肌、明るい群葉、暗い空など

6 – 明るめのグレー、平均的な白人の肌、明るい色の石、雪景色の影など
7 – 非常に明るいグレー、白い肌、日の当たっているアスファルトなど
8 – 質感を持つ白。日の当たっている白い壁など
9 – 非常に明るい白、僅かに階調があるハイライト、白い紙、雪など
10 – 純白。諧調の無い白、光源、鏡面反射など

カラーコレクションとグレーディングは、上のことを全てを試した後の最後の手段と考えてほしい。最終的な目的は、美しく、豊かで、色鮮やかな映像を作りだすことだ。これを実現するために求められる材料は映像ファイルの中にあり、それは正しい照明と正しい露出で撮影されたものであるべきだ。

光はカメラマンの命である。美しい映像を撮ろうとするなら、これらのことを頭に入れておいて欲しい。

Leave a reply

Subscribe
Notify of

Filter:
all
Sort by:
latest
Filter:
all
Sort by:
latest

Take part in the CineD community experience