映像に調和や緊張や、あるいは注目してほしいテーマに色を使うことにより、効果的な映像にすることができる。今回は、どのようにしてシネマライクな映像を作りだすかを理解するため、よく使われる5つのカラースキームについて見て行こう。
映像産業と言うものは、なかなか素晴らしいものだと思う。それにかかわる人々や映像機材、そして現場にみなぎる活気が好きだ。この仕事をしていると、人々とのかかわり、制作機器などを通じて日々自分のスキルが向上し、経験的な知識が増えていくのが分かる。しかし、分かった気になってしまうと、それ以上突き詰めなくなってしまうものだ。
既にご存知のことかもしれないが、私が“ああ、そうか!”と気が付いたことを書いてみたい。一般的に知られていることかもしれないが、新たな発見があるかもしれない。
皆さんは、どうして色調や色の組み合わせにより人の情感を刺激したり、美しいと感じさせたりすることができるのか考えたことがあるだろうか。もしそのようなことを考えたことが無いなら、この色の基本論理の説明はお役に立つだろうし、今後もっと興味を持たれるかもしれない。
ルックを決める
ポストプロダクションの作業では、カラリストは与えられたものでしか作業できないので、全体の映像のルックに対して責任を持つのはプロダクションデザイナー(美術監督)である。映像のルックは、ディレクター(映画監督)とシネマトグラファー(撮影監督)の同意のもと、美術部門により、カメラを回す以前に綿密に決められているのである。しかし、現実的には(予算の関係などで)プロのプロダクションデザイナーと仕事ができることは多くないのだ。
そのような場合、まだ経験の浅いプロダクションデザイナーやスタイリストに頼んで、現場にあるものに合わせて役者が着るものを選んだり、必要に応じて適当なものを選んで用意するのである。このような状況で即戦力となる知識をお伝えしたいと思う。
色の効果
色は見る人に心理的、物理的に影響を及ぼす。それは気付かないうちに、ストーリーの中で有用な位置付けとなっている。色を使いこなすことにより、作品に力強さと美しさを与えることができるのだ。
調和と緊張をもたらしたり、更にはキーとなるテーマに注意を向けさせるために色を使いこなせば、壮大な効果を期待することができる。
世界の偉大な撮影監督の作品を見ると、偶然その色が使われているわけではないことに驚く。強烈な赤は血圧を上げるし、青には癒される。ある色は特別な場所を連想させるし、また他の色は時代を連想させるのだ。
カラーホイール
最初に構想段階にも、ポストプロダクションにも当てはまる基本事項を見てみよう。
全てはカラーホイールから始まる。これは3Wayカラーコレクターを使ったことがあるなら、なじみ深いものだろう。
カラーホイールはカラーコントロールをする上で一般的なツールで、見る人に違和感を与えないようにするような色の組み合わせを論理的に考えるのによく使われる。
シンプルなカラーチャートは、RYB(あるいは減法混合)カラーモデルに基づいた12色から構成されている。
RYBカラーモデルでは、レッド、イエロー、ブルーの三原色で構成される。そしてこれら三原色のうちの2色を混ぜてできるグリーン、オレンジ、パープルが二次色である。そして更に6色が三原色と二次色を混ぜ合わせることにより作られている。
そして、それらを整理して、暖色系は右に、寒色系を左に配置される。暖色系は明るくエネルギッシュな印象を与え、寒色系は落ち着いた印象を与えるだろう。
こうして見ると、よく目にする調和のとれた配色は、関連性のある二つあるいはそれ以上の色の組み合わせによって構成されていることが分かる。
このコラムで使っている「代表的な5つのカラースキーム」のイラストは、ロキシー ラデュレスク(Roxy Radulescu)のサイト(www.moviesincolor.com)から引用している。いつか彼女の作品についても語ってみたい。
代表的な5つのカラースキーム
1.コンプリメンタリー(補色)カラースキーム
カラーホイールの対極に位置する2つのカラーは補色の関係にある。これは良く使われる組み合わせだ。オレンジとブルーがその一例。暖色系と寒色系を組み合わせてハイコントラストで鮮やかな表現を作りだす。彩度にもよるが、補色の関係はごく自然に目に美しく感じられる。
オレンジとブルーは、内面的にも外観的にも憂鬱さを表現する演技でよく使われる。登場人物の内面的な憂鬱は、人物の周辺の色選択によく用いられるのだ。
ジャン=ピエール・ジュネ(Jean-Pierre Jeunet)の映画アメリ(Amelie)はレッドとグリーンの補色を使った良い例である
オレンジとティール(訳者注:青緑色の一種で鴨の羽色(かものはいろ)とも言われる)は映画『ファイト・クラブ』のこのシーンが分かりやすいだろう。ティールはシャドウに溶け込み、オレンジはハイライトに同化する傾向がある。
似たルックが、映画『ドライブ』の、このシーンだ。
補色はいつも分かりやすいわけではなく、2色の間のコントラストは相対していることが多い。『ファイト・クラブ』の他のシーンでは最初は全体的に強いティールだが、カメラが寄るに伴って、深い青緑色とあいまってオレンジ色が肌の色に現れるのである。
2.アナロジー(類似)カラースキーム
アナロジーカラーはカラーホイール上で隣同士に位置している。それらはカラーパレット上でうまく馴染んで全体的な調和を作りだしている。暖色系、寒色系どちらでも成立し、補色が持つようなコントラストも緊張感も持たない。
アナロジーカラーは、よく自然界で見かける風景や屋外のシーンに見られる。通常は一つの色が支配的で、次の色はサポート的な位置付け、そして三番目は黒、白、グレーと一緒にアクセント的に用いられる。
映画『アメリカン・ハッスル』(American Hustle)のこのシーンで使われているレッド、オレンジ、ブラウン、そしてイエローは、カラーホイール上では隣同士に並んでいて、緊張感が少ない映像になっている。
3.トライアド(三色配色)カラースキーム
トライアドカラーは、カラーホイール上で正三角形に位置する3色。そのうち一つの色が主で、後の2つはアクセントになる。これらは彩度が高くなくても鮮やかな印象の画面を創る。
トライアドは映画ではあまり一般的に使われることはなく、また使い方が難しいのだが、極めて印象的な映像となる。
ジャン=リュック・ゴダール (Jean-Luc Godard)の映画『気狂いピエロ』(1964)ではレッド、ブルー、グリーンのトライアドが使われている。
4.スプリットコンプリメンタリー(分裂補色)カラースキーム
スプリットコンプリメンタリーカラースキームはコンプリメンタリーカラースキームとよく似ているが、正反対のカラーの代わりに、その両隣の色を使用する。やはりハイコントラストの映像を得られるが、多少緩和される。
コーエン兄弟の映画『バーン・アフター・リーディング』のこのシーンでは、レッド、グレーン、青緑色のスプリットコンテンポラリーが使用されている。
5.テトラード(4色配合)カラースキーム
テトラードは二つの補色のペアを使い、計4色で構成される。結果的には多彩な組み合わせでカラフルな印象になる。多くの色の組み合わせだが、通常は一色がメインの色となっている。
映画『マンマ・ミーア!』(Mamma Mia!)のカラフルなパーティーのシーンはテトラードの例で、うまくバランスされ調和がとれているが、一方でそれは古いディスコのイメージを出している。
ポストプロダクションで創りだされる、よくあるルックでは、オレンジやティールがどこに潜んでいるのかあまりよく分からないことがある。それは、オレンジは肌の色やハイライトに紛れ、ティール(あるいは青緑色)はシャドーに溶け込んでいるからである。
映画『マグノリア』(Magnolia)はオレンジとティールに対するハリウッドの情熱ともいえる。青緑色はシャドウに紛れ、ミッド~ハイライトにかけてのオレンジは特に皮膚の色ににじんでいる。
この記事が、企画段階やポストプロダクションの現場で、思ったような色の選択をするための一助になれば幸いである。
もちろんこの程度のことは既にご存知だろうが、もしそうでないならお役に立ててほしい。