かつてフィルムカメラは映画撮影を行う、専門家のためのニッチな製品だった。現在では一般的なインディー系の映画制作などは存在していなかったし、映画を作ること自体が、たとえそれが短い作品でも、大変な作業と考えられていた。
時が流れ、今日ではほとんどの人がカメラを持ち歩き、ビデオを撮ったり、あるいは一般の人が映画を作ることさえ可能だ。これは悪いことではないが、更なる需要があれば更なる供給があるものだ。映像の愛好家や我々のようなプロに対し、更に良いものをと躍起になって新製品を次々に送り出すカメラやソフトウェア企業のことを言っているのだが、今年はその流れが狂乱の域に達していたのではないだろうか。
NLEの戦い
Blackmagic DesignがFCP 7ユーザーがResolveに移行するのを支援するためのビデオチュートリアルを公開し、その記事もリリースしたが、FCPX、DaVinci Resolve、Premiere Proのユーザーを中心に熱い議論が行われた。
過去のソフトウェアプロダクトマネージャーとしての立場から正直に言うと、BMDは実際多くの機能を実装したが、ソフトウェア開発の面でもかなり印象的な戦略だった。グレーディングだけでなく編集の面からもResolveに移行させようとしたのだ。
もちろん、AppleとAdobeは、独自の機能をリリースしてこれに対向した。
多くの機能があるからと言って作業効率が良くなるわけではない。エディターならNLEの最も重要な要素はスピードであることを知っている。複雑で目を引く機能を搭載すると、スピードの低下を招くことになる。実際、4KでなくてもノートパソコンでResolveのNLEを使用して問題なく編集することは難しく、ユーザーはソフトウェアの完成度が十分でないためワークフローの遅れを報告している。
最近では、ノンリニア編集ツールは多くの選択肢がある。これらのGUIは非常に似ており、別のNLEへの移行はさほど難しい話ではなくなった。しかし、我々ユーザーとしては、NLEメーカーはクールな全方位VR編集を開発するよりも、スピードを上げることにもっと努力して欲しいと思っている。エディターは、カットするのが仕事だが、それを、単純に、スピーディーに行いたいのだ。
ただしそうは言ったが、Blackmagic Designはソフトウェアに関するイノベーターだと考えている。操作性の向上は必要だが、正しい方向に進んでいると言えるだろう。
専用PCか iMac Proか?
専用のPCを構築するか、 iMac Proを購入するか?
Appleが iMac Proをリリースしたとき、私の記事に疑問を呈する数十のコメントが集まった。 iMac Proは4,999ドルから始まり、13,199ドルもするプロのためのモンスターマシンだ。多くの読者は、自分専用のPCを構築する方がはるかに効率的だと主張している。実際、我々の読者に関しては、できあいのマシンを購入したい人と、パーツを集めて自作する人の2つのグループに分けられるようだ。コメントから判断すると、複雑な編集作業のためにプロ用のマシンを構築することは結構大変で、結局価格に関しては大きな違いはないようだ。しかし、議論になったのは興味深い。
高解像度の映像編集とレンダリングを行うための、完璧なマシンというものは無いようだ。しかし、PCにしても iMac Proにしても、高額になってしまうことは確かだ。
iMac Proの最大の利点は、ハードウエアとソフトウェアが同じ会社によって作られているということだ。即ちMac上でFCPXを操作する場合は、Premiere Proを使用する場合とまったく別の状況ということだ。
Mac vs PCの戦いは最近始まったわけではないが、今日の高い編集要件ではハードウエアに要求されるパフォーマンスも並大抵のものではない。
どちらに軍配が上がるか興味深いところではある。
2017年最大のイノベーションは全方位映像制作か?
3D映画を覚えているだろうか?まだ無くなってしまったわけでは無いようだ。映画制作の主流となるには程遠い存在だが、まだまだ可能性を秘めている。
私の視点では、映画は映画だ。フィルムが美しいのは、フィルムだからだ。映画は、現実を脱出し、数分から数時間のうちに日常では得られない経験ができるものだ。私が見る限りでは、この経験は3Dによって高められるというものではない。
私は、これは全方位映像に関しても同じであると考えている。多くのメーカーは、何か新しいものを求めて、ツール(ソフトウェアやハードウェア)の開発に余念がない。たとえば、GoPro FusionやLytro Immerse 2.0などは非常に高価なVRツールだ。また、FCPXとPremiere Proは新しいVR編集ツールも開発している。
私が指摘したいのは、この保守的な業界で非常に革新的なツールを開発することは、大きな抵抗があるかもしれないということだ。来年を予測するとすれば、全方位映像で制作された映画の幾つかは消えていくと思われるが、時が経ってみないと何とも言えない。案外伝統的な映画とはほとんど関係無い、全く新しいエンタテインメントの始まりかもしれない。
8Kの幕開けか?
REDは8Kで更なるリードを目論んでいる。最高の解像度についてのレースが始まったのだろうか。
4Kの映像を扱うのにさえまだ十分ではない状況だが、REDはすでに8Kカメラで我々を揺さぶり始めている。これが将来の「標準」と考えているのだ。
8Kは目で見る解像度に近く最も自然な解像度だと言われているが、8Kはまったく新しいベンチャーではない。 REDは2015年にWeapon 8Kを発表したが、これは初めてのものではなかった。 Astro Designは2013年に8K対応のAH-4800カメラを発表している。そしてREDは2017年にMonstro 8K VVフルフレームセンサーも発表するに至っている。
2017年のもう一つのサプライズは、シャープの8Kカムコーダーだった。これは主に8K映像の放送のために設計されたものだ。
もっとも、更に自然な画像という意味では10Kカメラの話も存在するので、8Kは最終のものではないだろう。この膨大なデータを編集したりレンダリングしたりするコンピューターはどのような仕様になるのか、興味深い。
他のメーカーでは、キヤノンのC200やパナソニックのEVA1など10Kドル以下のマーケットに、さらに手頃な価格のハイエンドカメラを導入したことが上げられる。この分野では、4Kが実質的に標準になったと言える。
オープンソースイノベーション
最後に、我々にガレージから世界を変えた時代を思い出させる最も魅力的な製品を上げておこう。Facebook、Google、Amazon、あるいはAppleといった多くの偉大な企業がそのような状況から生まれてきたが、現在、Axiomという非常に興味深いプロジェクトがシネマカメラマーケットで立ち上がりつつある。4K、あるいはそれを超えるオープンソースシネマカメラが開発されているのだ。このような取り組みにより、カメラの世界はまだまだ発展していくことだろう。
最後に
2017は何を残したのだろうか?超強力なコンピューター、NLEの戦い、全方位映像の「イノベーション」、「標準的な」8Kカメラやオープンソースカメラ。これらの高度な技術は魅力的だが、映画は映画であることを忘れてはならない。目的は感動するドラマを作ることだ。芸術そのものが最も重要なのだ。技術革新が溢れる時代ではあるが、まずは映像制作者であり、芸術家であるべきだ。我々ユーザーはそれを肝に銘じておくべきだろう。