富士フイルム X-H1レビュー
富士フイルムは、新型のフラッグシップミラーレスカメラ、X-H1を発表した。APS-Cセンサー、Xマウント搭載のビデオ指向のフォトカメラで、映像制作を念頭に置いて開発されている。
X-H1の登場によって、ミラーレスカメラによる映像撮影はますます加速されるのではないだろうか。 同社はX-T2で、動画志向のミラーレスカメラメーカーとしての地位を築いたと言えるが、この新しいフラグシップモデルは、F-logや、新たに搭載された5軸ボディ内手ぶれ補正、あるいはETERNAフィルムシミュレーション画像プロファイルといった機能を追加してその地位を盤石なものとしている。
ボディデザイン
新しいAF-ONボタンを除いて、X-T2と似たボタン配置で、手にしっくりと馴染むボディデザインだ。AF-ONボタンは、EVFを使用してマニュアルフォーカスモードで撮影する場合、非常に便利だ。このボタンを押すだけで、希望するポイントに瞬時にフォーカシングできる。X-H1は、パワーブースターグリップも用意されている。ハンドヘルド撮影する場合には、安定感が増すので、欠かせないものだ。また、ブースターグリップに用意されたヘッドフォンジャックでサウンドをモニターできる。また、3個のバッテリーを内蔵する事ができるので、連続使用時間を大幅に伸ばすことができる。4K収録では、約30分の動作時間となる。
メニューシステム
メニューは、ビデオモードで使用している場合、不要なフォト関連のメニュー項目のほとんどはグレーアウトされる。これは実に使いやすい。ほとんど文句のつけようがないが、1点あるとすれば、以下の点だ。
- 「SET UP」メニューで何かを操作した後に再調整したい場合、カメラはビデオメニューに戻ってしまうので、再度メインメニューから始めることになり、効率的でなく不要な時間がかかってしまう。
ビデオ機能
X-H1は X-T2と同じセンサーとプロセッサを使用しているが、X-H1にはトップモデルとして新しい機能が搭載されている。例えば以下のようなものだ。
- 5軸ボディ内手ブレ補正機能。
- F-Logガンマ。撮影とポストプロダクションで有用。
- ETERNAフィルムシミュレーション。グレーディングの時間が取れない場合有用。
上記の他にも、リレー録画機能、フロントとリアのタリーオプション、フルHDモードでの120fps記録、DCI 4K設定(24pのみ)、サイレントビデオ操作モード(詳細を参照)、デュアルSDスロットなども大きな特長だ。更に低照度特性と最高200Mbpsの高データレート記録も忘れてはならない。
なお、XマウントのMKレンズについては来月明らかになるだろう。これらの軽量でコンパクト、かつ高性能なレンズは、X-H1にベストフィットし、5軸のボディ内手ぶれ補正と相まって素晴らしい映像が期待できるだろう。
画質と音質
映像のルックアンドフィールは非常に映画的なもので、ISO5000のような高ISOのノイズさえも映画の映像のようで、邪魔になることはない。ただ、残念な点は4K 50p/60p記録を実装していないことと、4:2:2/10ビットで記録できないことだ。
オーディオに関しては、内蔵マイクは24ビット/ 48KHzでサウンドをキャプチャするが、特筆できるのは外部オーディオの録音品質。その理由の1つは、カメラのローカットフィルターを無効にすることができることによる。これによりインタビューでも豊かなサウンドを得ることができる。私はこの機能が他のミラーレスカメラに実装されているのを見たことがない。
使ってみた印象
ただ、現在のファームウエアは、あまり高い得点を与えることができない。ビデオモードでのやや不連続的なオートフォーカス性能、マニュアルフォーカス、および一貫性のないサウンドパフォーマンスの3点が主な問題点だ。
- 連続オートフォーカス性能:時にはこのカメラのオートフォーカスはうまく機能し、どの部分を指定しても完璧にフォーカシングする。しかし、撮影状況によっては、オートフォーカスは躊躇し、うまく機能しない。何か設定が間違っているのか、そうでなければオートフォーカス性能を改善する必要があるだろう。何か進展があれば、追ってお知らせしたい。
- マニュアルフォーカス性能:手動でフォーカスを確認しながらズームインすることができる(スタンバイまたは記録モードのときにカメラが自動的に画像を拡大する)。しかし、フォーカスを調整した後、元のフレームにリサイズされない。撮影している状況でフォーカシングし、カメラの裏側にあるDisp / Backボタンを見つけて、元のフレーミングに戻すという動作を想像してみて欲しい。フレーミングを保ちながら、そのような動作をすることはほぼ不可能だ。
- 一貫性のないサウンドパフォーマンス:このタイプのカメラでは、記録音質は実に優れているが、サウンド関係には以下の3つの問題がある。
- モニターの音が歪んでいる
- 外部マイクを使用してオーディオメニューを「オフ」に切り替えても、音声が聞こえることがある
- 外部マイクを使用してオーディオレベルを調整すると、時々音がカットされたり、ミュートされたり、あるいはカメラがフリーズすることがある
主な長所(順不同)
- 実に素晴らしい4K(DCI 4K)ビデオ画質
- Full HDで120fpsの高速ビデオ録画
- NTSC / PAL地域対応
- 新たに開発されたETERNAフィルムシミュレーション
- リレー録画可能なデュアルSDスロット
- 静かなビデオ操作モード:モニター画面でタッチパネル操作により絞り、シャッタースピード、ISO感度、ホワイトバランスなどの設定をコントロールできるので、記録中にボタンやダイヤルの操作音を拾わない
- フロントとリアのタリーインジケーター(メニューから制御可能)
- 最大200Mbpsの高い記録ビットレート
- タッチスクリーンオートフォーカス
- 良好な低照度特性。 ISO 3200は非常に使いやすい
- 5軸ボディ内手ぶれ補正
- ハイダイナミックレンジF-Logガンマオプション
- 任意のフォーカスポイントを指定できるフォーカスレバー
- 正確なピーキング
- マニュアルフォーカスモードでは、タッチスクリーンでフォーカスオーバーライド可能
- マニュアルフォーカスモードでは、距離チャートを使用できる
- SDカードの残記録時間を簡単に確認できる
- 優れたEVFによりマニュアルでのフォーカシングが容易
- 音質が向上した内蔵マイクによる録音(24bit / 48kHz)
- 録音中にオーディオレベルを調整可能
- 他を凌駕する外部マイクでの音質
- カスタマイズできる豊富なFNボタン。例えばLCD画面に4つの機能を割り当て、4つの方向のいずれかに画面をスワイプすることでそれらのコマンドを実行することができる
- ヒストグラム
- 長いバッテリー持続時間。 3個のバッテリー(1個はカメラに、後の2個はハンドグリップに収納)で、問題なく一日中撮影することができた
短所(順不同)
- 4K 50/60pはサポートされず
- 内部4:2:0 8bit、外部4:2:2記録に留まる
- 完全なフリップ式ではないLCDモニター
- 2.35:1など16:9以外のアスペクトレシオをシミュレートする画面表示が無い
- 本体のみで使用している場合、ヘッドフォンジャックが無い。ブースターグリップが必要
- 15分のDCI 4K連続記録時間制限(フルHDでは30分)。ブースターグリップを装着するとDCI 4Kで30分まで延長
- 4Kビデオファイルは2:40分のセグメントに分割される(FAT32の4GBの制限)
- 場合によって不安定なオートフォーカス
- 記録終了後、メディアにセーブする時間が長い
- 平均的なローリングシャッター性能
- ゼブラ機能なし
改善要求項目(順不同)
- タッチスクリーンモードがAFに設定されていて、カメラはマニュアルフォーカスモードになっている場合、 LCD画面を2回タップすると(またはレンズのフォーカスリングを回すと)フォーカシングのためにズームインする。これは良いのだが、LCD画面上でフォーカスポイントを指定するためタップすると、フォーカシングではなく記録が始まってしまう。
- マニュアルフォーカスモード時、スタンバイモードでレンズのフォーカスリングを回すと、フォーカシングを容易にするためズームインするが、フォーカシング終了後、記録ボタンを押しても元のフレームサイズに戻らない。記録中でも同様。フォーカスリングを操作し終わったら、1~2秒で戻って欲しい
- 「Natural Live View」は、F-Log撮影時に有用だ。LUTを当てた場合の映像をモニターすることができる。ただ、この機能は他のフィルムシミュレーションモードでも有効となってしまい、間違ったルックになってしまう。
- ダイナミックレンジはパーセンテージ(400%、200%)で表示される。「Stop」で考える映像制作者にとっては、この情報は役に立たない。富士フイルムによれば撮影モードによってダイナミックレンジも異なるとのこと。ならば、設定ごとに可能な最高のダイナミックレンジをプリセットしておき、メニューでそれ以下にできないようにしておくのはどうだろうか。
- 私が使用したヘッドフォンではオーディオのモニター音が歪んでいた
- 外部マイクを使用している場合、オーディオメニューを「オフ」にしても、音声が聞こえることがある
- 外部マイクを使用し、オーディオレベルを調整すると、音が出なくなり、ミュート状態になってカメラがフリーズする
- マニュアルフォーカスモードとオートフォーカスモードを切り替えると、EVFの画像サイズとメニューレイアウトの構成が変わり非常に気が散る
このレビューで使用したレンズは、FUJIFILM XF 16-55mm f2.8 R LM WRだった。これは同社の主力ズームレンズの1つで、フルフレームの焦点距離は24mm〜84mmに相当し、f / 2.8は全域一定だ。 X-H1と組み合わせて使ってみた長所と短所の一覧を以下に示す。
長所
- ズーム範囲全体で優れたシャープネス
- 手動絞りリング
- 一定f / 2.8絞り
- 全天候対応のデザイン
- スピーディなフォーカスモーター
短所
- 手ブレ補正機構はない(X-H1 の5軸ボディ内手ぶれ補正システムは問題ない)
- f / 2.8固定だが、ズームインすると変化したように見える
- 比較的重い
まとめ
X-H1カメラの登場で、ビデオ指向のミラーレスフォトカメラで富士フイルムとそのライバル達との差は確実に小さくなっているようだ。同社は、映像制作ユーザーのニーズに耳を傾け、対応することが非常に重要だと知っている。重要なのは、今回のレビューで指摘した不具合をファームウエアのバージョンアップで修正していくことだ。さらに、4K50/60、10ビット記録、より良いカラーサンプリング、低照度特性の改善など、機能が強化された他のメーカーからの最新モデルに対抗する機能も望まれる。これらの要素も是非将来的に視野に入れてほしい。
レビューでのカメラ設定:F-Logの場合:シャープネス-4、NR -4。 ETERNAフィルムシミュレーションの場合:シャープネス-4、NR -4、シャドウトーン0、ハイライトトーン0。すべてDCI 4K 24p、200Mbpsで撮影。
Adobe Premiere Proの最新版で編集。 FilmConvert X-T2プリセットで色補正。シャープネスなし。