キヤノンEOS-1D X Mark IIIレビュー
キヤノンEOS-1D X Mark IIIは既に出荷されており、最大5.5KのRAWビデオを内部記録する機能を備えている。キヤノンは、EOS R5の発売も予告しており、これも待ち遠しいカメラだ。キヤノンはDSLRで動画を撮影する扉を開けた第一人者で、今後の動向が楽しみだ。
実はEOS-1D X Mark IIIのビデオは3月の初めに撮影し、すぐにリリースする予定だったが、公開できないでいた。EOS-1D X Mark IIIの.crm RAWファイルの読み取りとコード変換に、新しいMacBook Pro 16が必要だったが、間に合わなかったためだ。Apple Japanの英語でのサポートが十分でなかったのもその原因のひとつだった。その間にも、EOS-1D X Mark IIIのレビューについての問い合わせが熱心な視聴者から多数寄せられていた。
したがって、この記事の原案は3月中旬に書かれたもので、まだ東京でトイレットペーパーが手に入りにくい時期だった。外出制限でストレスが溜まっていたが、日本茶を飲むことで心を落ち着かせていた。それを教えてくれたのは、日本の若い女性、リカさんだった。彼女の家族のルーツは日本の伝統的な緑茶産業に深く結びついている。
リカさんは私を彼女の素敵な家族に紹介し、このカメラレビューを撮影することに同意してくれた。彼女が運営しているお茶に関するホームページはこちらからアクセスできる。
キヤノンDSLRの軌跡
キヤノン5D Mark IIは2008年に発表された。これは、高解像度ビデオを撮影できる2つ目のDSLRカメラだ(最初のカメラはNikon D90だったが、これは720p止まりだった)。キヤノンのこの発表は、撮影の世界を大きく変えた。 4年後、キヤノンは4Kを内部記録できる最初のデジタル一眼レフカメラ1D Cを導入することで、VDSLR市場での優位性を保った。 しかし1D Cは高価(10,000ドル以上)で、広く普及するには至らなかった。キヤノンは2012年に、新しい「サブブランド」、Cinema EOSラインに、C500、C300、および1D Cを位置付けた。しかしこの決断は、キヤノンのデジタル一眼レフカメラでのビデオ機能の進化を妨げ、折角自ら開拓した市場を手放すことになってしまった。 あるカメラはビデオの撮影時にフルフレームセンサー全域を使用せず、また別のカメラはC-Logなどを備えていなかった。Cinema EOS ラインとの競合を避けたのかもしれない。
しかし他の様々なカメラメーカーがこの新興市場に参入するにつれ、キヤノンユーザーはそれらのメーカーに移っていった。情報の欠如は、重大なマーケティングのミスにつながる可能性がある。VDSLRやミラーレスカメラでビデオを撮影するユーザーが急激に増えていたが、彼らはキヤノンのDSLRを選ぶことはなかった。
EOS-1D X Mark III
筆者はCanon 1D Cに10,000ドルを払ったユーザーの一人だ。このような小さなカメラで4K動画を撮影できることに夢中になった。ドキュメンタリー撮影の知識を磨き、それを仕事としていた。 しかしこのカメラはそれ以降無視されてしまった。そして結局1D Cの後継機種がリリースされることはなかった。
そして今、新しいキヤノンEOS-1D X Mark IIIが登場し、EOS R5が計画されている。従来ならこれらのカメラはCinema EOSライン下に置かれた可能性もあったが、今回キヤノンは素晴らしいビデオ機能を備えた史上最高のDSLRやミラーレスカメラをフォトグラファーへも導入することにした。これについては後で簡単に触れるが、5.5K RAWがどのように使われるのか興味があるところだ。1D Xラインは常にキヤノンがフォトグラファーに提供する最高位のカメラだが、そのような高レベルのビデオ品質がフォトグラファーにも必要になってくるのだろうか。
EOS-1D X Mark IIIの新機能
EOS-1D X Mark IIIは記録形式や解像度の柔軟性が高く、限られた時間ですべてのビデオ機能を確認することはほとんど不可能だ。そこで今回は最も注目されるであろう、5.5K RAWに注目してレポートすることにした。
数日間、さまざまな風景や被写体を昼夜問わず撮影したが、画質に関しては非常に優れている。 RAW記録は12ビットで記録でき後処理に有用だが、高価なCFexpressメディアが必要なことと、大量のデータの処理を行う必要があり、簡単に使えるとは言い難い。
以下は、RAW 5.5K(5472 x 2886)での撮影で気が付いたこと。
- 5.5K解像度での全画素読み出しと内部12ビットRAW記録(CRMファイル)
- 卓越したビデオ画質
- ハイライトの許容度の高さ
- BT709ビューアシストは正確で、適切な露出を実現
- RAWモードで最大5.5K / 60pの記録(一部のCFexpressメディアカードは対応できない場合があった)
- デュアルカードスロット。高品質のRAWと 4Kプロキシ同時記録(4Kビデオプロキシファイルは高品質で、マスターとしても使えるレベル)
- RAWビデオは編集に非常に有利。上のビデオでは、難しい状況での撮影を選んだが、結果は、特にハイライトに関しては、素晴らしい。
なお、EOS-1D X Mark IIIのダイナミックレンジテストはまだ行っていない。近く行う予定だ。
以下は改善が望まれる点。
- 5.5K RAW 50/60 fpsで撮影する場合、デュアルオートフォーカス機能は無効になる。クロップモード(1.3xクロップ)で撮影している場合を除き、他のすべての4K撮影モードで使えない。
- RAWビデオの再生はBT709またはBT2020の画像プロファイルでサポートされていない。 LOGピクチャープロファイルでのみ可能。
- 5.5K RAW +プロキシで、60pおよび24pで撮影しているとき、記録が突然停止することがあった。データレートが高すぎて処理できないのかもしれない
その他の特長
5.5K内部RAW記録に隠れてしまっているが、その他にも多くの特長がある。
- 低照度特性は非常に優れている。一度も高ISO設定が必要な状況は無かった。ネイティブ400を超えるISOを選択すると、カメラは適切に応答する。もちろん、高いISOでは多少のノイズがあるが、十分使える範囲だ。
- 多くの解像度、フレームレート、およびコーデックがサポートされているが、従来のMotion Jpegに代えmp4を採用。 C-Logに応じて、さまざまな記録の選択肢がある。 C-Logピクチャープロファイル以外を選択すると、H.264、8ビット、4:2:0で記録される。 C-Logを選択すると、カメラはH.265、10ビット、4:2:2で記録する。他の多くのキヤノンDSLRと同様に、All-I圧縮とIBP圧縮を選択できる。
- AFは高速で正確なので使いやすい。また、撮影中のフォーカスポイントの移動は滑らかだ。デュアルピクセルオートフォーカスと組み合わせると、素晴らしいものになる。ただ太陽光下でAFスクエアマーカーを見つけるのが非常に困難なので、この点は改善が望まれる。やはりDPAF(デュアルピクセルオートフォーカス)が5.5K RAW @ 24/25 / 30pや4K、およびフルHD 120fpsで機能することをが期待される。なお瞳AFをサポートしている。
- 4K、10ビット、4:2:2をHDMIから出力可能(今回はテストしていない)。 Atomos Ninja Vなどの外部レコーダーで記録できる。そのため、30分を超える記録時間が可能になり、たとえばProResで編集すると、編集が簡単になる。
- バッテリーの持続時間は1D X Mark IIから変わっていないようで、1日撮影するには3〜4個のバッテリーが必要。
- バッテリーコンパートメントは、すべての1D Xカメラと同様サイドにあるので、ジンバルなどで使用する場合、バッテリー交換時にいちいちカメラを取り外す必要はない。
- 優れた耐候性。
- ファンレス設計なので、静かな場所での撮影でも問題ない。
制限事項
いつものように「制限」は非常に主観的なもので、例えば、29:59分の記録時間は撮影するものによっては問題ではない。個人的には、EVFがなく、真のIBIS無しでの撮影は簡単ではなかった。
- 音質:録音された音声は多少ノイズがある。
- ヘッドフォンの音量を上げる方法が分かりにくい。
- 記録を開始すると、露出計が表示されない。
- 現在キヤノンは、FCXとAvidに対して、CRMファイルに対応したRAWプラグインを用意している。 なおブラックマジックデザインのResolve 16は、これらのCRMビデオファイルをサポートしている。Adobe Premiere CCはまだ対応していない。
実際に撮影してみて
キヤノンのデジタル一眼レフカメラやミラーレスカメラに長い間触れていなかったため、メニューに慣れるまでに少し時間がかかった。しかし、実際には以前と変わっていないようだ。写真とビデオの機能は、いまだに分離されていない。ビデオの画質は、非常に素晴らしい。このカメラは優れた「B」カメラとして使えるという話をよく耳にするが、「A」カメラとして十分使えるだろう。
RAWビデオについては先に述べたように、高い柔軟性を持つ。今回はすべての解像度とフレームレートをテストできなかったが、MP4、10ビット、4:2:2、ALL-Iファイルでも十分に高画質だ。
デジタル手振れ補正を有効にしてハンドヘルドで撮影してみた。結果は良好だが、もちろんIBISほどは良くない。なお、デジタル手振れ補正を有効にして、DISをオフにしないまま次にRAWで撮影しようとすると、ビデオのRAW記録メニューがグレー表示になる。次に使おうとしたとき、なぜRAW記録メニューが表示されないのかを理解するのに時間がかかった。RAW記録モードに切り替えるとDISが自動的に無効になるようにして欲しい。
使えるレベルの手振れ補正が必要な場合は、やはりジンバルが必要だ。
まとめ
今回使った機能の範囲は「氷山の一角」に過ぎない。このカメラは素晴らしく、技術的にも非常に優れている。ドキュメンタリーを撮影する者としては、IBISとEVFを備え、もう少し小型のカメラ、EOS Rのサイズが望ましい。
さて、このカメラのターゲットユーザー像はどのようなユーザーだろうか?まず、フォトグラファーは間違いなくターゲットユーザーだろう。しかし、フォトグラファーはこのようなハイエンドのビデオ機能を本当に必要としているのだろうか?もちろんフォトグラファーの一部や映像クリエーターがこのカメラを使うことは十分に考えられる。
そして重要なことは、このカメラはキヤノンの技術の集約でありEOS R5に受け継がれるものだろう。キヤノンの新しい方向性は、映像クリエーターにとっては非常に喜ばしいものだ。今後のキヤノンの動きに注目したい。
上記のビデオは、渋谷の横断シーンを除くすべてを5.5K / 24p、RAW、C-Logで撮影している。 Adobe Premiereでファイナライズするため、Resolve 16でProRes 4444に変換している。(筆者がResolveを使えればこんな面倒なことをする必要な無いのだが) FilmConvertでグレーディング。音楽:epidemicsound(リンクを使用すると10%割引になる)。
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