キヤノンC500は4年前に最高クラスのシネマカメラとして発表された。現在においてもまだ選択する価値はあるだろうか。幾つか私が感じていることを書いてみたい。
我々が身を置くこの映像制作の世界は、実に移り変わりが激しい。毎月のように新しいカメラが発表される。しかし、すでに世に出ている製品を再検証してみることは、ときには価値が有るのではないだろうか。
C500はキヤノンのフラグシップシネマカメラとして2012年末に発表された。価格はその後劇的に下がり、新しいユーザー層も開拓していった。現在は、キヤノンが$20,000でフラグシップシネマカメラを発売した当時とは大きく変化している。C500は4K RAWやHalfRAW 60pで収録でき、2Kなら12bit 4444で記録できる。ダイナミックレンジやカラーも良好だ。そしてこれを最初の価格よりもはるかに安価に購入することができるのだ。中古なら更に安価だ。
毎月新しいカメラが発売されるが、この小さくて古いカメラもまだ健闘しているのだ。多くのトップDOPがこのカメラを使って大ヒット映画を制作した話は、よく耳にする話題だ。
私にもこの古いカメラを使う理由があった。私はC500をOdyssey7Q+レコーダーと一緒に数ヶ月前に購入した。予算的にAlexa MiniやRED Epicを使うこができなかったからだ。
そこで、この時の経験と考えを、同じよう状況におられる皆さんにシェアしておこうと思ったのだ。画質などの詳細は既に多くのユーザーによって語られているので、ここでは触れない。もっと実践的なことを取り上げようと思っている。
ここではC500の購入を検討する理由を上げてみたい。多分ほとんどのブログは、そのようなことには触れていないと思う。
C500を検討する主な理由
- 価格(中古のC500とOdyssey7Q+はFS7と同じ価格だ)
- 4K Raw/Half Raw 60/120 fpsで出力
- 2K 12bit 444出力
- 低コストのメディア(コンパクトフラッシュ)
- 簡単で広く使われているワークフロー(Clog)
- プロ仕様の機能(タイムコードシンク、マルチSDI出力、ゲンロック)
それでは、それぞれについて更に掘り下げてみよう。
外部レコーダーが無ければ、C500はC300 Mark Iだ
外部レコーダーが無ければ、C500の価値はC300 Mark Iと同じ程度のものだ。内部記録では、50Mbps CBR(4:2:2) MPEG2 MXFファイルで1920×1080 30pを記録できるに過ぎない。2Kと4KはC500から出力されるだけなのだ。
対象となる外部レコーダーは限られる
C500はキヤノンのフラグシップ機だったので、多くのメーカーが外部レコーダーを高解像度、ハイフレーム記録用に発売した。
これらのレコーダーはまだ販売されており、AJA Ki-Pro QUAD、Codex-Sオンボードレコーダー、あるいはConvergent Design Gemini 4:4:4などがある。これらは全てC500用に設計されたものだが、大きく、重く、高価なものだ。
もしC500をシングルオペレータースタイルで使うなら、ConvergentDesignのOdyssey7Q+しか無いだろう。Gemini 4:4:4に代わり、Odyssey7Q+は新しいレコーダーとして登場したが、それは小型軽量でモニター機能も搭載している。
もちろんAtomos Shogun InfernoもC500をサポートしている。しかし、RAWでは標準のフレームレートしかサポートしていない。ハイフレームレートやDual 3G-SDIはHalf RAW 100-120 fpsやRAW 50/60fpsを記録する場合必要となるが、これらをサポートしていないのだ。
大容量RAWフォーマットのみのハイフレームレートサポート
上記2つがC500とOdyssey7Q+の組み合わせが、現在のマーケットでも通用する理由だ。この2つの機材の組み合わせでユニークなのは、ハイフレームレート(50-120fps)がどの解像度でも圧縮フォーマットでサポートされていないことだ。
Odyssey7Q+はC500のRAW信号を様々なProResに変換する機能を備えている。この機能こそがこの組み合わせの強みの一つなのだ。しかし、ハイフレームレートではそれができない。その代わり、.RMF(RAW Media Format)が使える。この場合はデータ量が大きくなり、120p HalfRAW、あるいは60p RAWでは、1TBの記録容量でも23分しか記録できない。
我々は圧縮に対して不満を言うが、圧縮されていないとまた文句を言う。1TBで23分しか記録できないなら、メディアからデータを転送して再びメディアを使えるようにするには、時間がかかりすぎると文句をいうのだ。まあ、勝手なものであるが。
それに加え、それ以上のフレームレートをサポートしていない。C500のメニューでは2K 1-120pが選択できるが、Odyssey7Q+ではこれらをサポートしていない。2Kや4KでのハイフレームレートをProResで記録するにはアップデートが必要となる。
*.RFMは圧縮されているが、ProResのようなものではない。
ファンノイズ
2014年にファームウエアがアップデートされ、記録中はファンが停止する事ができるようになったが、8分経つとまた回り出す。このノイズは結構大きい。静かな場所での収録だと問題かもしれない。実際、映画監督のShane Hurlbut氏はドキュメンタリーやインタビューでは使えないと書いている。C500を映画”Need For Speed”で使いたかったようだが、そのことでキヤノンはファームウエアのアップデートを行ったようだ。
なお、これに関してはいくつかの対策がある。一つはファンを静音タイプのものに交換すること。米国にはファンユニットを販売している人がいるが、価格はそれなりにするようだ。
私は、D-Tapから電源を得るデスクトップPCのファンを使用しOn/OffできるソリューションをDIYして使っている。確かに大きくなってしまうが、安価だし、インタビューでも問題なく使える。インタビューではほぼいつも三脚を使うので、必要なときにはすぐに取り付けて使えるし、音もそれほどうるさくないのだ。
テストでは4Kでの収録をファン無しで1時間半することができた。内蔵のファンは回ることがなく、これで問題ないことが確認できた。
実際のサイズとコスト
このファンも含めて、C500システムのサイズとコストを考えてみよう。
2Kと4Kモードでは、バッテリーの消耗が激しい。BP-955で1時間持たない。従ってBPバッテリーの予備を持っているが、通常はVマウントバッテリーを使用する。この方が長く使用できるし、Odysseyとファンにも給電しなければならないので、こちらのほうが使いやすいのだ。これらを全て組み付けると、カメラシステムは結構大きくなる。特に高さも気になるところだ。
次にコストだが、他のカメラを使う場合と比べると、比較的安価に収まる。C300 MarkIIよりも安価だ。中古ならFS7にエクステンションユニットとカードメディアを付けた価格よりも安価になる。いずれにしても最初から組み上げるとなると、多くのアクセサリーが必要だ。
ハンドル、バッテリー(多くのBPバッテリーやVロックプレートなど)、Odyssey7Q+、予備も入れたSSD、データを貯めておくハードディスクなど、ざっと考えただけでもそれなりにコストがかかる。
さて最初の話題に戻ってC500が今でも通用するか、ということを考えてみよう。私は、今でも思った以上に活躍する場があると思っている。しかしそれは外部レコーダー次第だ。ConvertDesignはすでにサポートを終えているようだ。彼らには古いシステムにも目を向けてほしいところだ。2K、4KのハイフレームレートのProRes対応も考えてくれればよいのだが。
カラーハンドリングやSDI出力、あるいは2K 12bitモードに関して言えば、ソニーのFS7が勝っていると個人的には思う。ブラックマジックデザインのものより高感度で信頼性も高く、C300 MarkIIよりも安価だ。ただ、デュアルピクセルAFやダイナミックレンジ、あるいは内部記録の優位性では、譲っているところもあるが。
映画監督や関係者ががキヤノンのC500をどう考えるか興味のあるところだ。