先日キヤノンのフラグシップシネマカメラであるEOS C700をプロジェクトで使用する機会があったのでレポートしたい。ここでは自分のC300MarkIIをBカメラとして使用したが、2台のカメラのマッチングはうまく行った。
EOS C700の詳細に入る前に、キヤノンのEOSシネマカメララインナップの要約をおさらいしておこう。
キヤノンのラインアップは他のメーカーとは少し異なっている。シネマEOSシリーズの最初のカメラは、2011年後半に発売されたC300だった。数ヶ月後の2012年初めにC500が発売された。その後、エントリーレベルのC100も発売され、更に2年後、2014年にC100 Mark IIが導入されている。その12ヶ月後の2015年にC300 Mark IIがC300の後継として発売されている。
キヤノンの採用した発売順は、他のメーカーと異なり、中間から始まり、上に行き、下に下り、といった具合だ。他の多くのメーカーは、まず旗艦モデルから始まり、徐々に安価なモデルへ展開していく傾向がある。
面白いのは、C500 Mark IIは結局商品化されず、代わりに今回レビューすることになったEOS C700を2016年に発表したことだ。更に、2017年にはCinema EOSファミリーの新しいメンバー C200が登場している。
このようにしてCinema EOSのラインアップがほぼ完成したのだが、現在もEOS C700が同社のフラグシップシネマカメラとして君臨している。登場から2年経ってC700はどうなっているか、今回詳しく見てみたい。
今回の撮影でCanon Germanyは、EOS C700本体、Canon CN-E18-80mm T4.4 Lシネズーム、EVF-V70 OLEDビューファインダー、ショルダーマウントセットなどを用意してくれた。番組は、残念ながらまだ放送されていないので、実際の映像を公開することはできなかった。ご了承いただきたい。
EOS C700の概要
EOS C700の本体は16.7 x 15.4 x 32.7 cmの立方体で、重さは3.4kg。本体だけなら、それほど大きく、重いわけではない。周辺機器を装備すると、もちろん重くなるが、肩担ぎでの撮影も可能だ。C300 Mark IIはこうはいかない。ショルダーマウントするためにはアクセサリーが必要なのだ。
C700は決して小型軽量のカメラではないが、個人的にはこの形状は気に入っている。 C700の競合機種といえばARRI Amiraだが、これは実に重い。カメラの重量は4.1kgだが、実際に撮影する装備を付けて肩担ぎで長時間撮影するのはまるで拷問だ。
カメラボディの上部と下部には、1/4 “と3/8″のネジ穴を持つフルサイズのチーズプレートが付いている。これは、カメラの使い勝手に柔軟性を与えている。
このカメラを購入する場合、EFかPLマウントを選択する必要がある。今回使用したものは、ロック付きEFマウントだった。遊びは一切なく、マウントはレンズをしっかり保持していた。レンズを取り付ける場合、マウント自体が回転するため、レンズを回転させる必要はない。
なお、送用に使用する目的で、先進的なカラーサイエンスとダイナミックレンジを備えているカメラが必要な場合は、C700にB4レンズアダプターを介して2/3 “ENGレンズをマウントすることもできる。
オーディオと接続性
接続性の点では、EOS C700は必要なものをすべて持っている。 4系統のSDI出力、2系統のモニター出力(SDI)、EVF-V70 OLEDビューファインダー専用コネクターなどだ。それぞれの出力は、各ニーズに合わせて設定することができる。ビューファインダーにはオーバーレイ、LUT、拡大、フォーカスアシストなど、すべての機能に対応している。
オーディオ機能は必要なものすべてがまとまって装備されている。 XLR入力、ヘッドフォン出力、TC入力、およびMic/Lineスイッチは、隣接して配置されている。他のカメラの中には、コネクターがそれぞれの場所にあるため、オーディオケーブルを曲げなければならない場合も多い。内蔵マイクで拾った音声はトラック3と4に録音される。これはもちろん放送で使わないが、外部オーディオを同期させるための音声として非常に便利だ。
全体的に、細部に気を配って設計されたカメラだといえる。空気吸入口と排気口は反対側にある。C300 Mark IIの吸入口は耳のすぐそばにある。大きなことではないが、耳のそばでのファン回転ノイズはあまり心地よいものではない。
記録
EOS C700での記録は標準のCFast 2.0カードで良い。SxSやXQDといった専用の記録メディアは必要ない。 128GBカードで、160Mbps/1080/25pのRec.709映像を約110分、あるいは340Mbpsの4K映像を50分収録することができる。 SDカードがあれば、50Mbps/LongGOPでプロキシファイルを同時に記録することも可能だ。ただし、スロー/ファーストモーションで撮影時は、SDカードにプロキシファイルは記録されない。
今回の撮影では、CFast 2.0カードを使用し、XF-AVCで10bit/4:2:2映像を記録した。 EOS C700は専用のCODEXレコーダーを使用して4K RAWを外部記録することができるが、今回のプロジェクトでは時間が優先だったので、時間がかかるワークフローは不可能だった。
キヤノンのC-log 1と2のほかに、C-log 3を選択することもできる。C700の画像は非常に気に入っている。特に、スキントーンはすばらしい。
オートフォーカスとフォーカスアシスト機能
デュアルピクセルCMOS AFは非常に優れており、これは同社のカメラで最も革新的な機能のひとつと言える。この機能だけで、相当多くの時間を節約できた。撮影はタレントの広角からクローズアップまで様々なアングルで行った。専用のフォーカスプラーを購入する予算がなかったので、今回はCN-E18-80mm T4.4 Lシネズームと組み合わせ、EOS C700のデュアルピクセルオートフォーカスに頼らざるを得なかった。しかし、これは実に快適に働いてくれた。
ある日、監督はドリーズームをやりたいと言い出した。特に苦労すること無く、数回のテイクを撮ったが、フォーカシングについて心配する必要は無かった。実に一度も無かったのだ。セットアップはデュアルピクセルAFにして、1人の俳優をフレームに入れ、カメラの動きを制御した。ここまでうまくいくとは、とても信じられないくらいだ。
多くはないがハンドヘルドでも撮影した。この時はカメラのフォーカスガイドに切り替えて撮影した。このモードでは、マニュアルで被写体にフォーカシングする必要があるが、オフになっていたり、あるいはあまりにも遠かったり、近かったりすると、システムが教えてくれる。これにより、どちらにフォーカスリングを回せばよいのか、すぐに分かる。
メニューシステム
EOS C700は、カメラマン側に操作画面を備えている。 6つのボタンがLCDディスプレイを囲んでおり、メニューにアクセスすることができる。ただし、ここにはビデオ出力関係は無く、REC、TC、AF、ネットワーク(ブラウザのリモート、IPストリーミング)、オーディオ設定の専用メニューは、C700のコントロールセンターで行う。 6つのユーザーアサイナブル機能(画面経由)を備えたカスタムページで好みに応じて設定することができる。
また、キーロックボタンも用意されており、すべてのボタン、あるいはRECボタン以外のすべてのボタンをロックすることができる。すべてのボタンはバックライト付きで、暗い環境でも操作しやすい。
このメニュー構造の別の長所は、メニュー画面でVFや外部モニターが遮られないこと。アシスタントやサウンドエンジニアと一緒に仕事をしている場合は、特に有用だ。カメラマンがフレーミングに集中する間に、彼ら/彼女らは自分たちの設定を調整することができる。
NDフィルターとハードウェアアクセサリー
C300 Mark IIと同様、C700にはメカニカルNDフィルターが内蔵されている。 2つのモードを持つ2つのレイヤーがある。ノーマルモードでは、クリア、2ストップ減光、4ストップ減光、6ストップ減光の4つのフィルターがある。拡張モードでは、これらのフィルターを重ねることにより、更に8ストップ減光と10ストップ減光の2つのステップが追加される。なお、NDフィルター数が1枚から2枚に変わると、カメラがフォーカスを確認するよう警告する。
オプションのアクセサリーで、着脱可能なリモートパネルが用意されている。これはカメラのアシスタント側に取り付けることができ、すべてのカメラコントロールを行うことができる。リモートパネルを取り外し、ケーブルでリモートコントロールすることも可能だ。
また12Vと24Vの複数のコンセントが用意されており、カメラから外部モニターやFIZコントローラー、ワイヤレスビデオ送信機などに電力を供給することができる。
今回の撮影ではキヤノンのEVF-V70 OLEDビューファインダーを使用したが、EVFはとても快適で機能も十分だった。ただ、少し気になったのは、正面から見ないと画像が歪んで見えてしまう。多くのEVFも、実は同じような問題があるのだが、私が使っているC300 Mark IIのEVFはZacuto Gratical Eyeで、視野角はもう少し寛容だ。さらに、4:3のアスペクト比なので、オーバーレイされる情報は16:9画像の外に表示される。
EVF-V70には、メニューを素早く操作するための専用ダイヤルと、アサイナブルボタンが用意されている。今回は、カメラは常にドリーに乗っており、7インチの「Blackmagic Design Video Assist」モニターを使用した。
短所
完璧なカメラなどというものは無いので、C700にも幾つかの欠点はある。主なものを上げておこう。
まず、オートフォーカスを使用しているときは、画面を拡大することはできない。これはデュアルピクセルオートフォーカスの仕組みによるものだと思われる。
カメラを使用していて気付いたのだが、バッテリーの減りが早いように感じられた。レンタルした98whのIDXバッテリーが多少くたびれていたかもしれないのだが、45分程度しかもたなかった。いずれにしても、C700のようなカメラは少なくとも150whのバッテリーが必要だろう。
同梱のアクセサリーは、専門メーカーのものには太刀打ちできない。唯一まともな部分は、頑丈なハンドルとアクセサリー取り付けネジが多く用意されているところだ。 EVFマウントなどは、ホームセンターに売っているようなものだ。ベースプレートから15mmのロッドを取り外すには、六角棒スパナが必要なのだ。このあたりはARRI やWooden Cameraなどからまともなキットを手に入れる必要があるだろう。
前にも書いたが、もう少し小さく、軽ければ、自分にとっては完璧だっただろう。また、価格に関しても、C300 Mark IIと比較して高すぎる。C700はよくできたカメラだが、カメラボディだけで約$ 30,000という価格は、メインストリームのカメラとしては難しいだろう。
まとめ
それでも、キヤノンEOS C700は非常によくできたカメラだ。作りも画質と同様に優れている。様々なアクセサリーが接続できるのは、他のカメラに比べて大きな利点だろう。「トリプル DIGIC DV 5」により広いダイナミックレンジで4K/60p映像が撮影できる。結局10日間連続して撮影したが、問題は発生しなかった。
自分で購入したいかというと、私はC300 Mark IIで十分だ。C700はおよそ40,000ドルで、自分には高すぎる。これはレンタルがメインだろうし、頼りになる選択肢だ。C300 Mark IIとのマッチングも問題なく、美しい映像が撮影できる。
ソニーは同社のカメラに優れた機能を搭載し続けているが、少なくとも私にとっての最優先事項は使用ではなく画質であり、私にとってキヤノンはまだソニーに勝っている。 C700は200fpsのスーパースローモーションなど重要な機能が搭載されていないが、画質的には優れており、信頼性の高いカメラだといえる。
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