スマートフォンで本格的なビデオ撮影するケースが増えている。ここでは、スマートフォンの設定やカメラの使い方ではなく、撮影の方法について、ヒントをお伝えしよう。
独立系の映像制作者として、日夜撮影の仕事をしている読者も多いだろう。恐らく、多くの読者はいわゆる“新しもの好き”だろうし、従って流行りものには飛びついてしまう傾向がある。今はポケットサイズのビデオカメラとしてスマートフォンが注目されている。これはベストの機材ではないかも知れないが日々進化しており、専用のカメラにも追いつく勢いだ。この記事の映像も、iPhone 7 Plusと、FiLMiC Proアプリで撮影し、DaVinci Resolveでグレーディングしている。
一方、美しい映像を作成することはカメラだけに関することではなく、非常に多くの技術的な制限があるスマートフォンで動画を撮影する場合においては、様々な要素が関係する。スマートフォンのカメラ自体は、印象に残るショットを撮影する上で最も重要なものというわけではない。最も重要なものは、撮影者自身の目だ。
制限を理解する
スマートフォンで撮影を始めると、すぐに様々な制限があることに気付く。
- いつもパンフォーカスで、全てにフォーカスが合っている。
- 明るい環境で絞り優先にすると、シャッタースピードが速すぎてスムーズな映像にならない。
- コントラストが大きいと、ハイライトが飛び、シャドーは潰れる。
- 低照度特性はひどいものだ。夜景ではノイズが目立つ。
では、なぜ多くの人はこのような制限だらけのカメラを使いたいのだろうか?
答えは簡単で、いつも持ち歩けて、簡単に撮影できるからだ。FiLMiC ProやMavisのようなプロアプリを使っても、数秒で撮影できる。そして簡単にパソコンに取り込んで加工し、美しい映像に仕上げることができる。
更に様々なアクセサリーも発売されている。例えばNDフィルターを装着すると、明るい太陽光下でもシャッター速度を落とすことができる。
もちろん、カバーできない制限もある。例えば、かなり暗い状況での撮影は難しい。なので、暗い場所での撮影は避けてしまうかもしれないが、実際撮影してみると意外に使える映像が撮れるものだ。
まずはスマートフォンに対する制限の認識を変えることだ。最初から無理だと判断するのではなく、どうしたら使えるショットになるかを考えると良い。例えばフレーミングを考え、わずかな光源を入れることにより、雰囲気のある映像にすることもできる。
浅い被写界深度は必須なものではない
「映画的」なショットの条件は浅い被写界深度という固定観念が無いだろうか。そのために大きなセンサーを使うのは確かだが、それが使えないからと言って映画的な映像が撮れないということではない。
例えば、構図の決め方で深みを加えることができる。フレーミングによる奥行き感のほうがンサーサイズよりも遥かに重要な要素なのだ。
画家のように考える
画家は光で描写するが、画家と同じように光を考えると良い。印象に残る角度、質感、コントラストの状態を探して欲しい。すべてに焦点が合っているので、ジオメトリ、主要な線、パースペクティブ、シャドーとライトで、視聴者の目を惹きつけることができる。
早朝や午後、あるいは日の出や日没、劇的な空の色や反射は常に素晴らしいものだ。このような光景を目にして、フレーミングを考えることにより、いくらでも映画的なショットを撮影することができる。カメラやレンズ、あるいは焦点を合わせる部分など考えずとも、印象に残る映像は撮れるのだ。
機能が少ない分、試行錯誤してみる
便利な機能がないということは、基本的な撮影技術しか頼るものがないということだ。このため、スマートフォンで撮影すると、多くの機材を持っているよりはるかに早く撮影のスキルを向上させることができる。
この経験が積み重なれば、スマートフォンで素晴らしい映像が撮影できるようになるだけでなく、いざ大きなカメラを前にしても、今までとは違った観点でファインダーを覗くことができるようになるだろう。
カメラの制限
DSLRカメラやミラーレスカメラで撮影する場合に比べ、スマートフォンで撮影する場合は制限が大きくなる。小さなセンサーではダイナミックレンジが十分得られないし、記録形式は最大100Mbpsの8ビットHEVCやH.264コーデックに限られる。記録形式は技術の進歩に従い、DSLRやミラーレスと大きく異なることはなくなるが、センサーの大きさに関してはやはり制限事項が大きくなる。
これは、正確な露出と色温度が重要であることを意味する。撮影後に修正の余地はあまり無いからだ。ただ、多少の補正は可能で、上の画像で右はFiLMiC Proのフラットなガンマ、左側はrec709で補正したものだ。 スマートフォンの映像はグレーディングできないと言われることもあるが、そんなことはない。筆者はいつもグレーディングしている。
今後の方向性
スマートフォンをビデオカメラとして使うのは、今のところ単なる流行のように見えるかもしれないが、基盤となるイメージング技術は今後改善していくだろう。見過ごすことができないのは、常に持ち歩けるカメラであり、何かあればすぐに撮影できる点だ。
スマートフォンは映像制作を簡単にし、その存在を意識させることなく物語を自然に撮影する道具となるだろう。これは非常に重要なことで、映画製作の分野でも自然に使われる時が来ると思っている。