フジノンは、ドキュメンタリースタイルのシネマカメラマン向けに手頃な価格のEマウントシネマズームの新ラインアップを導入した。 フジノンMK18-55mm T2.9は、2本の新レンズのうち最初に発売されるもので、cinema5Dではすでにテストベンチに入っている。ではフジノンMK18-55mm のテスト結果をレビューしよう。
このレンズはブリージングが無く、焦点距離によるフォーカス移動がなく、フルギヤードのシネマレンズコントロールを特長としている。今回のテストでは、8Kテストチャートで、Zeiss LWZ.3 21-100mm T2.9-3.9、およびキヤノンのフォトレンズと比較した。
また、先の記事内の映像素材も参考いただきたい。
このレンズがシネマ制作に向いている理由
まず、なぜこのレンズが映像制作用に興味深いのかを考えてみよう。長年にわたり、ラージセンサーのカメラを使用するビデオグラファーは、キヤノンのレンズをはじめとする写真用レンズを使用することを余儀なくされていた。我々の多くはドキュメンタリーやドキュメンタリースタイルの作品を撮影しているが、写真用に設計されたズームレンズは必ずしも動画撮影には適していなかった。例えばフォーカスリングの狭い回転角度、両端にストップが無くぐるぐる回る機構、マニュアルアイリス非搭載、ズームを回すとフォーカスがずれる(パーフォーカルではない)仕様など、動画撮影が考慮されていない設計思想だった。しかし、最近になってようやく、ビデオ制作に適したズームが発売されるようになり、しかも軽量で比較的安価なレンズが手に入るようになったのだ。ソニーの28-135mmが最初発売され(レビューはこちら)、次にキヤノン、そして今回フジノンからも発売されるに至っている。
特にフジノンのMK18-55mm T2.9は、ドキュメンタリースタイルの撮影には最適のレンズのひとつだろう。
- パーフォーカル:ズームを動かしてもフォーカスは変化しない
- スムーズなフォーカスとズームのギア:動画撮影に適したスムーズなズームとフォーカス
- 広いフォーカスリング回転角度:フォーカス調整が容易に
- フォーカスリングの回転両端でのハードストップ:フォローフォーカス使用時に必要
- 沈胴式ではない構造:フォーカスやズーリングを回してもレンズの全長が変わらない。マットボックスやフィルターを使用する際に必要。
フジノンMK 18-55mm T2.9はまずEマウントで提供され、ソニーのEマウントカメラと使用できる。なお、このレンズはSuper35mm / APS-C用で、カメラ側のクロッピングモードなどを使用しないとフルサイズセンサーカメラには使用できない。
では、テストラボの結果を見てみよう。
ブリージングがない!?
実際、このレンズでブリージングは起こらない。フォーカシングしていると画角が変化する、あの現象だ。ひどいものになると、フォーカシングしている時にズームが動いているような感じになる。この現象は写真ならともかく、フォーカス送りのようなビデオ撮影手法が使えなくなってしまう。多くのフォト用レンズで、大なり小なりこの現象が起きるので、知らなかったという読者はフォト用レンズで試してみてほしい。
上記の例は、55mmでフォーカスリングを端から端まで動かしたときの様子だ。見ての通り、ブリージングはほぼ分からない範囲に収まっている。他の焦点距離でもテストしたが、同様にほぼブリージングは認められなかった。
先の記事の中のビデオでフォーカス送りの場面があるので、是非見て欲しい。(2:50付近)
キレと色収差
今回のラボテストでは、フジノンMK 18-55mm T2.9とZeiss LWZ.3 21-100mm T2.9-3.9、そしてキヤノンEF-S 17-55mm F2.8を比較している。テストには8K ISO チャートとImatestのソフトウェアを使用した。
個人的には、コストにかかわらず、キレの良すぎるレンズはあまり好みではない。しかし色々な欠点があるにせよ、フォト用のレンズのキレはよく、これを使えば高精細の映像を撮ることができる。そのため4Kの世界では、多くの写真用のズームが使われているのだ。 cinema5Dでは、多くのカメラやレンズで実際に仕事をしているが、仕事ができるなら、その製品が安いかどうかは問題ではない。レンズのキレが良いと、カメラの画質自体が良くなるのだ。
フジノンMK18-55mm T2.9における18mmでの映像のキレ
これは18mmで絞り全開時、4K撮影したときのコーナーシャープネス。ご覧のように、フジノンMK18-55mm T2.9は、より高価なZeiss LWZ.3 21-100mm T2.9-3.9と互角だ。それでもZeissはややシャープで、キヤノンは明らかにソフトだ。
実際の数値は以下のとおり。
- ツァイス:平均MTF50 センター0.391 コーナー0.371
- フジノン:平均MTF50 センター0.377 コーナー0.348
- キヤノン:平均MTF50 センター0.367 コーナー0.295
フジノンMK18-55mm T2.9における33mmでの映像のキレ
33mm / 35mmでも同様の結果が得られた。この3本のレンズ性能は、この焦点距離では全体的にわずかに下がるが、相対的には同じ位置づけだ。
- ツァイス:平均MTF50 センター0.371 コーナー0.331
- フジノン:平均MTF50 センター0.373 コーナー0.335
- キヤノン:平均MTF50 センター0.385 コーナー0.281
フジノンMK18-55mm T2.9における55mmでの映像のキレ
50mm / 55mmでも結果は同じ。
- ツァイス:平均MTF50 センター0.356 コーナー0.338
- フジノン:平均MTF50 センター0.372 コーナー0.347
- キヤノン:平均MTF50 センター0.360 コーナー0.289
技術的に詳しい読者は、焦点距離が少し異なるレンズを比較したことに懸念を感じるかもしれない。もう少し一貫していたほうが良かったかもしれないが、個人的にリファレンスとなるレンズが欲しかったのと、詳細の比較をするつもりではなかったので、今回はフジノンとツァイスレンズの比較とし、それにキヤノンのレンズを参考に加えている。
解像感についてのまとめ
明らかに、Zeiss LWZ.3は最もシャープなレンズであり、おそらく4Kより高い解像度でもそれは変わらないだろう。 しかしフジノンMK18-55mm T2.9はこれに優るとも劣らない。このレンズはTストップ、焦点距離、およびフレームのどの部分でも画面の中心から端まで一貫した解像感を保っており、かなり良い結果だ。キヤノンのレンズはフォトレンズであり、価格的にも他2本のレンズと比べると相当安価なものなので結果は想像がつくが、やはり他の2本のレンズと比べると見劣りする。 フレームの中央の解像感はあるが、端に行くと甘くなってくる。
色収差についてのまとめ
テストでは色収差、すなわちコントラストのある縞模様のエッジに付く偽色についても測定した。驚くべきことに、フジノンMK18-55mm T2.9では目立った色収差がほとんど認められなかった。開放近くではどのようなレンズでも普通は見えてしまうものだ。ツァイスでさえ、条件によっては色収差が認められる。
ソフトウェア分析の結果は以下の通り。
- ツァイス:21mm 0.0685% (画像全体)
- ツァイス:35mm 0.0974% (画像全体)
- ツァイス:50mm 0.0995% (画像全体)
- フジノン:18mm 0.0657% (画像全体)
- フジノン:33mm 0.0231% (画像全体)
- フジノン:55mm 0.0363% (画像全体)
- キヤノン:17mm 0.0685% (画像全体)
- キヤノン:35mm 0.0974% (画像全体)
- キヤノン:55mm 0.0995% (画像全体)
口径食(周辺光量落ち)
周辺光量落ちについては、比較テストはしていないが、フジノンMK 18-55mmについてデータを取ったので見てみよう。
たまに周辺光量落ちを芸術的な表現として使うこともあるが、レンズの性能として見た場合、少ないほうが良いのは言うまでもない。ただ、個人的には、先の理由からあまり重要視している要素ではないのも確かだ。どの程度アイリスを開ければ、どの程度の周辺光量落ちになるかが分かっていれば、特に問題となることはない。
フジノンのレンズの周辺光量落ちについて、アイリス開度を変えて撮影した画像があるので、アニメーションで比較できるようにした。
周辺光量落ちのまとめ
フジノンMK18-55mm T2.9では、開放近くで周辺光量落ちが見られ、それはテレ端に行くほど顕著になる。18mmのような広角域ではあまり気にならないが、33mmや55mmでははっきり見える。
自分としては、このような現象はむしろ自然な感じと思っている。広角の映像では周辺光量落ちは少なく、寄りの映像ではポストプロダクションでむしろ周辺光量を落とすこともある。もちろん、これは必ずしも必要というわけではない。ただ逆の場合はありえないだろう。もちろん、これは個人の好みの問題ではあるが。
歪曲
さて最後のテストは歪曲だ。直線を撮影すると曲がったり歪んだりする現象だが、焦点距離によっても変化する。 このテストはツァイスとキヤノンレンズも含めて比較してみよう。
数字では、歪みは以下のように測定される。
- ツァイス:21mm 2.27%樽型歪み
- ツァイス:35mm歪み0%
- ツァイス:50mm 0.272%ピンクッション歪み
- フジノン:18mm 3.91%樽型歪み
- フジノン:33mm 1.84%ピンクッション歪み
- フジノン:55mm 1.97%のピンクッション歪み
- キヤノン:17mm 3.83%バレル歪み
- キヤノン:35mm 1.62%ピンクッション歪み
- キヤノン:55mm 1.5%ピンクッション歪み
歪曲についてのまとめ
残念ながら、フジノンMK18-55mm T2.9はこれが最大の弱点のようだ。 ツァイスは焦点距離が異なっても良好な結果を示している。 フジノンは広角域で樽型の歪みが目立ち、33mmからはピンクッション歪みに変わる。フォト用ズームレンズと同レベルの歪だ。これは、建築画像など直線の被写体がある場合、問題になる可能性がある。 キヤノンEF-S 17-55mm F2.8にも歪が見られるが、フジノンよりも良好だ。
他のテスト結果から見ると、フジノンMK18-55mm T2.9の歪みも抑えられていると期待したのだが、これは期待はずれだったようだ。最小限の色収差と軽量設計や、フレーム全域でキレの良い映像を見せたのだが、そのトレードオフが歪みに出ているのだろうか。
フジノンMK18-55mmレンズ総評
このレンズは、多くのソニーのラージセンサーカメラユーザーに歓迎されるだろう。FS7やFS5のようなカメラに最適だが、α6500などのミラーレスカメラでも十分使える。α7Sやα7S IIで撮影する場合はSuper35mmセンサーサイズになるが、カメラのクリアズーム機能を使用してAPS-Cサイズへの補正が可能だ。
このレンズは今のところEマウントにのみ対応している。パナソニックのGH5、フジフイルムのX-T2(レビュー記事はこちら)、あるいはオリンパスのOM-D E-M1 II(レビュー記事はこちら)のような優れたカメラが多く発売されている状況からも、フジフイルムが早くこれらのマウントに対応してくれることが望まれる。
最後に、テスト結果をまとめておこう。
- フレーム全域で変わらない素晴らしい解像感
- ブリージングなし
- 良好な色収差特性
- フォトレンズよりも発色、コントラストが良い
一方、各焦点距離で発生する歪曲でフォトレンズと同じくらい発生する。
価格的には4,000ドル以下で、これなら文句なしだろう。フォト用レンズから考えるとまだ高価だが、シネマズームとしては破格の価格だ。従来のシネマ用ズームレンズは通常20,000ドル以上する。Zeiss LWZ.3 21-100mm T2.9-3.9も同社のレンズとしては相当がんばった価格だが、それでも10,000ドルだ。上のテスト結果も含めて考えると、フジノンMK18-55mm T2.9のお買い得感が実感できるだろう。
現在フジノンMK18-55mm T2.9のライバルは、ソニーの18-110mm F4.0、シグマ の18-35mm T2.0と50-100mm T2.0(レビュー記事はこちら)、そしてキヤノン18-80mm T4.4(レビュー記事はこちら)といったところだろう。次のラボテストで取り上げてみたい。
フジノンMK18-55mm T2.9は現在予約販売中で、3月上旬に出荷を予定している。 またコンパニオンレンズのフジノンMK50-135mmも今年後半に発売される予定だ。