我々は日々、新しいカメラを買い、新しい照明器具を買い、新しいシネマカラープロファイルをダウンロードし、セットを飾り、時には派手さを競っている。ファイルはセーブされ、編集され、配信されるが、何か一つ忘れてはいないだろうか？ ストーリーだ。
私を含めほとんどの映画製作者は、映画が好きでこの業界に入ったと思う。自分にも作れるのではと思い、それを実現するため、日々努力をしているはずだ。しかし、“言うは易し行うは難し”だ。”The Great Escape：大脱走“やスピルバーグが27歳の時に創ったという”Jaws：ジョーズ“のような映画を、皆が作っているわけではないのだ。我々の多くは、金のかからない短編作品を作っているわけである。
Cavemen sit around a fire telling stories. Note the lack of 3D camera. Artist: Margaret A. McIntyre
よく、「この映画を撮るのに、カメラは何が良いだろうか」と聞かれるが、そんなことはどうでも良いことだ。ストーリーが大事なのだ。ストーリーを創ると言うことは、ダイナミックレンジを改善するようなものではない。それは視聴者を現実世界とは異なるところに連れて行くものなのだ。
映画製作者は多くのアーティスト同様、情熱で動いている人たちだが、残念ながら、自滅してしまっていることもある。例えば、こんなことを言っていないだろうか。
- 製作費がない： ならば、$9.99のFilmic ProをインストールしたiPhone6sを使えばよいではないか。
- 自分はシナリオライターではないので： これも良く聞くセリフだ。いつも反論するのだが、映画製作は、一般的にはリーダーシップもそうだが、自分より能力があり、いつも自分に挑戦してくる者を周りに置いておくことだ。彼らに協力してもらう努力をすればよいのだ。ネットを探せばいくらでも見つかるだろう。彼らの作品を見て共感できれば、メールを送れば良いのだ。
- 時間がない： もし時間がないと言うなら、それは映画を作るのが実際のところ楽しくはないのかもしれない。好きなことには時間を使っているはずだ。映画作りが好きなら、自然と時間はできるだろう。
新しい技術が発表されたら、自分にこう問うと良い。この新技術は良いストーリーを作るのに役に立つだろうか、と。新技術などというものは、えてしてストーリーを乱してしまうものだ。3D騒ぎは記憶に新しいだろう。3D映画をもう一度見たいと思っただろうか？3Dでドラマに感動しただろうか？
バーチャルリアリティーはどうだろう？VRは円状にカメラを配置し、同期し、カメラの周りの360°の景色を撮り、それを360°空間で上映する。ドキュメンタリーでは、カメラを棒に固定し、それを持ち歩く。VRは映画製作者のツールではない。それはITプロフェッショナルとプログラマーのものだ。90年代の“Goosebumps：グースパンプス”本のように、VRは視聴者に自分の意志で見るところを決める自由を与えてしまう。しかし、自由に好きなところを見られるがために、見てもらいたいところを見落とすというようなこともありうるのだ。
VRの未来は明るいかもしれないが、監督やDPがどのように使いこなすかが重要だろう。今のところ、ニューヨークやロンドンで、感動を与えているVRと言えば“Shakespeare in the Park”だと思う。チケットは$20.00からタダまで。
“The Historian” – インデアンのアーティストがアメリカ兵との戦いを描いているArtist: E. Irving Couse”
ストーリーを大事にして作品を作っていると、それはマーケットにおける自分の競争力を高めることにもなる。あまりそういうことは言いたくないが、今やテレビ用の、おもしろくない映像を撮っているREDやAlexaのカメラマンはたくさんいる。しかし、ストーリーで感動を呼ぶ製作者はあまりいないのだ。是非、ストーリーから始めて欲しい。
もし、ストーリーを創るということが目的ではないなら、映画製作者として、その作品は創るべきではない。これは心に留めておいてほしい。
