東京オリンピックが閉幕した。アスリートたちが勝利を祝い、敗北に思いを馳せる一方で、このイベントプロデュースした技術者たちもまた祝っているだろう。今年の東京オリンピックは、ライブ映像制作の成功例と言えるだろう。NBCユニバーサルは、4K、HDR、Dolby Atmosサウンドを組み合わせて、ライブ放送から没入感のある魅力的なストーリーを生み出した。
東京オリンピックの中継のすべてを見ることができた人は少ないと思うが、NBCユニバーサルの試みは大きな成果をもたらした。映画やテレビでは当たり前のように使われている技術が、まだ実験段階ではあるが、放送でも使われるようになった。数年前に誰もが抱いた疑問、「誰が4Kを必要とするのか？ HDで十分じゃないか」。その答えがここにある。
ATSC 3 . 0 – ライブTVの新基準
NBCの放送の前に、規格について述べておく。Advanced Television System Committee（ATSC）は、全国の放送局で使用される技術を決定する業界団体だ。2009年には、ATSC 1.0規格が策定された。これにより、テレビはアナログ信号からデジタル信号に移行した。圧縮された映像と追加データが可能になり、1920×1080のHD解像度とデジタルクローズドキャプションが実現した。
2017年には、ATSC 3.0が登場した。ATSC 3.0は、韓国で導入された後、急速に普及している。より多くのデータを信号に詰め込むことで、ビットレートはATSC 1.0の約3倍になった
H.265やMPEG-Hなどの最新のビデオコーデックと組み合わせることで、これまではストリーミング・プラットフォームでしか利用できなかったものが、テレビ局で放送できるようになった。この新しい規格では、8Kの解像度も可能で、フレームレートも120fpsまで対応している。
後者はもう10年ほど先のことのように思われるかもしれないが、NBCの放送をドルビービジョンとドルビーアトモスサウンドの4Kで配信しているプロバイダーがいくつかあった。特に、Comcast Xfinity社のXfinity X1プラットフォームでの放送が注目されている。「fuboTV」、「Altice」、「Verizon Fios」も、いくつかの地域で高解像度の信号を配信しているが一貫性がなく、どこで映像と音声のパッケージを入手できるかを見極めるのは困難だ。
2021年に開催された東京オリンピック
今年のNBCのオリンピック中継は、HDR、Dolby Atmosサウンド、4K解像度など、映画やテレビで完成された技術があり、それらを30fpsのライブ放送に導入した。
水泳競技では、鮮やかな水しぶきが上がり、プールの水とのコントラストが映えた。肌の色がより鮮やかに、よりはっきりと表現された。HD解像度では不足していた空の雲も、画像の中で浮き出ていた。緑の芝生に映える小さなゴルフボールや、ビーチバレーでの砂粒も見ることができた。
開会式では、ドルビーアトモスサウンドの採用により、NBCの技術者が生演奏の音源をサウンドスケープの中で好きな場所に配置することができた。
観客動員数が限られているという試合の状況を考慮して、技術者は放送の音像をさらに高めるための工夫をした。スタートの合図が後ろから聞こえてくると、視聴者は選手の立場に立つことができる。競技者の声は競技中にも聞こえてくる。ボールやラケットなど、使われているものの質感や存在感が音像の中に浮かび上がってくる。
映画への没入感は、映画館だけではなくなった。
現在と未来
NBCはATSC 3.0の採用に向けて進めているが、克服すべきハードルはまだたくさんある。ハイエンドの消費者市場の技術はまだ断片的で、オリンピックで使われた組み合わせを利用することはできない。HDRの映像は一部のテレビでは美しく見えても、他のメーカーのテレビではそうではない。
また、すべてのメーカーが準拠する世界共通の規格がないため、迅速な切り替えができない。さらに、HDRは、広色域、ローカルディミング、miniLEDなど、他のディスプレイ技術と併用する必要がある。しかし、メーカーが独自の技術を使い続ける限り、消費者は待たされることになる。
Source / further reading: tvtech
