Panasonic VariCam35レビュー – Arri Alexaに挑む
Panasonic VariCam35は昨年導入され、パナソニックがシネマカメラマーケットへ参入する先兵となった。 VariCam35をライブプロダクションでテストする機会があったので、このパナソニックのフラグシップシネマカメラの使用感をレポートする。
写真撮影:Tony Gigov 氏
VariCam LTが最近導入されたが、これはVariCam35と同じセンサーを使用し、小型軽量化してワンマンオペレーションを可能としたカメラだ。今回はその元となったVariCam35を見てみよう。
Panasonic VariCam35レビュー
やはりカメラの実力を試すには、実際のプロダクションで使用するのがよい。ということで、ちょうど若いミュージシャンのiNanaとミュージックビデオを作ることになった。
いつものように限られた予算しかないので、二人のダンサーの即興を1日で収録した。カメラアシスタントのMichi Mrkvicka,と二人で、1000Wのタングステンライト1本を使用している。また、ALZOのLEDソフトライトとフィルターも、幾つかのショットで使用した。
Dual Native ISOはVariCam35が持つユニークな機能のひとつだ。ISO800とISO5000をネイティブISOとして選択できる。このビデオではISO800を使用しているが、ベストパフォーマンスで収録できた。ISO5000のテストはVariCam LTのテストで見ていただきたい。
このショットのレンズはSchneider Cine PL lenses と Zeiss Cp2 50mm Macroを使用している。また、Camdolly Systemも使用した。
ハンドリング
Panasonic VariCam35は記録部とセンサー部の二つのユニットで構成されている。必要に応じて小さいサイズにして使用できるが、通常は合体させて使うことが多いだろう。
このカメラはArri ALEXAと同じくらいの重さ(約6.5Kg)があるが、二人での使用では少しきつい。あと2名のカメラアシスタントが付くような、もう少し大きな規模の撮影クルーが理想的だ。使用したSachtlerのシネマ用三脚は小さすぎたようだ。
VariCam35は良くできたカメラだ。頑丈で使い勝手も良い。パナソニックは長い間シネマカメラを発表していなかったが、このあたりのことも十分研究していたのだろう。メニューは直観的だし、一人で撮影する場合でも使いやすい。アシスタント用のサイドメニューも問題ない。ビューファインダーは多少エッジが甘いが、見やすいし、マウントも良くできている
Alexaスタイルのメニューは良いのだが、多少使いにくい面もあるので触れておこう。立ち上がりに40秒もかかるのだ。1度だけ立ち上げるのならまあ許せるが、フレームレート、解像度、あるいはコーデックの変更に2度リスタートさせなければならない。特にカメラが自分でリスタートしないのは問題だ。いちいち人間がON/OFFする必要がある。
バッテリーの持ちは良い。この撮影を通して数個のVマウントバッテリーで済んだし、ファンノイズも問題なかった。
フッテージ
VariCam35は2K/120fpsが最大と言うのは残念だ。このビデオではスローモーションがポイントになっている。そのため、スローモーションショットには、ソニーのFS700をコンバージェントデザインのOdyssey 7Q+ OLEDモニター付きで使用した。カラーマッチングに関しては、Vlog と Slog 2の相性は良く、特に苦労することは無かった。
二つのカメラを使って見ると、VariCam35の良さが見えてくる。FS700はやはり映像がソフトになるしダイナミックレンジも多少劣っている。映像のノイズも目立ち、DaVinci Resolveで補正している。
もちろんVariCam35は相当高価なので、良いのは当たり前だ。それを考えると、FS700は善戦しているし、何よりRAWでスローモーションを収録できるのだから、今回の撮影には重宝した。VariCam LTがあれば240fpsまで収録できるので、カラーマッチングの意味でも理想的だったかもしれないが。
ライティングをいろいろ変えることができなかったので、このビデオではVariCam35でのショットが多くなっている。ハイキーでパステルルックの映像にしたかったので、色はかなりいじっているのだが、VariCam35の色精度は素晴らしい。4Kの映像は実にクリーンで気持ちが良い。ただし、暗い部分には思いのほかノイズが見えるし、ハイコントラスト部には偽色が見られた。
ダイナミックレンジや低照度特性、あるいはノイズに関してはキヤノンC300 MarkIIとよく似ている。ただ、Alexaには、全体的な性能や有機的な画質とでも言うようなところで、及んでいないように思う。VariCam35の映像は自然なのだが、フィルムらしさが足りないように思えるのだ。それは、キヤノンやソニーのカメラに通じるものでもある。
Adobe Premiereで編集したが、他の4Kファイル同様、8コアのMac ProではVariCam35の4Kファイルを編集するのは無理だ。むしろ他のカメラで収録したH264/4Kファイルよりも厳しい気がする。結局ProResに変換して編集を行った。
ラボでのテスト
VariCam35をラボでもテストしたのでレポートしておく。ダイナミックレンジは12~13stopで、C300MarkIIとソニーのFS7とほぼ同じだ。(テストの方法はこちら) チャートを見ると、VariCam35のセンサー特性は、C300MarkIIと非常によく似ている。
低照度特性に関しては、VariCam35のネイティブISO5000はC300MarkIIのISO3200時と同等だ。これら二つのセンサーは近いものかもしれない。また、両方のカメラでシャドウ部に多くのノイズが見られた。しかし、4K映像の全体的な画質や色精度においては、両方とも素晴らしいものには違いない。
ローリングシャッター現象については、これもまたC300MarkIIやFS7と近いもので、問題ないレベルである。
解像度に関してもVariCam35は問題ないが、ハイコントラストのエッジに、ランダムな偽色が見える。エリアシングのようにも見えるが、スターチャートではもう少し顕著に出ている。
まとめ
各カメラそれぞれに特性があり、先の偽色や暗部のノイズは高解像度、深い色深度、あるいは高い色精度の裏返しでもある。しかし実際の4K撮影において、それが悪さをするということはあまり無いだろう。
自分としては、VariCam35は良いカメラだと思う。特に美しい4K映像と色精度は、使っていて楽しくなる。一方、欠点としては、このような小さな規模での撮影には、重量がありすぎる。VariCam35は、その他にもプロキシ記録やインカメラカラーコレクションなど、比較的大きな規模のプロダクションのワークフローで有用な多くのユニークな機能を持っている。
さて、Alexaに挑めるだろうか? VariCam35が持つクリーンなISO5000の映像と高解像感を選ぶDPがいるかもしれない。このカメラのエルゴのミカルなデザインは、個人的には気に入っているが、Alexaが持つパフォーマンスと有機的な映像はやはりユニークで、なかなか他のメーカーは追い付けないのではないかと思う。しかし、Arriはいまだに4Kセンサーを開発できていないというのも、また事実だ。その意味ではVariCam35は撮影によっては有用な選択肢であろう。
このレビューがお役に立てば幸いである。質問や意見があればコメントしてほしい。
ご興味があれば、iNana のサイトはこちら。ビデオで使用しているサウンドはこちらから無料でダウンロードできます。
Thanks to David Knapp at AV Pro for helping with the camera.
Thanks to the whole team for making this production possible:
Starring
Elina Lautamäki & Hussam N. Alsawah
iNANA
Photos by our friend Tony Gigov
Assistant Camera
Michael Mrkvicka
Makeup
Doris Konta
Special Thanks to
Meshit (Lena Krampf & Ida Steixner), Kunsthalle Berndorf BERNDORF AG (Rainer Koller, Andrea Gruber), Iva Zabkar, Carles Muñoz Camarero