このゲストポストでは、Stewart Addison氏がRAWで撮影する意味、さまざまな種類のRAW、そしてRAWワークフローをいつ実装すべきかとその方法について説明する。
キヤノンは最近C200を発表した。これはRAWを撮影できる最初の10,000ドルレベルのシネマカメラだ。 そして発表と同様に、インターネット上では、RAWファイルのサイズやワークフローがいかに簡単ではないかが早速指摘されている。 確かにRAWで撮影するのは手間がかかり、時間がかかり、ハードドライブの容量を食うことは事実だが、そのメリットは確実にコストを上回る。時間に追われる撮影者であっても、精細で、豊かな映像は、今日シネマカメラで撮影する映像制作者全てに必須の機能と言える。
実際のところRAWとは何か?
簡単に言えば、RAW映像は、カメラセンサーから出力され、カメラのプロセス回路で処理されていないプレーンなデータを言う。 RAW映像を動画として編集するには、Blackmagic Resolve、RED Cine-X Pro、ARRIRAW、Adobe Premiere Proなどの映像制作ソフトウエアを使用する必要がある。他のフォーマットで撮影する場合、カメラ(または外部レコーダー)は、センサーが取り込んだ映像を決められたフォーマットで処理するため、その過程で、センサーで撮影された“生”のデータではなくなる。 一方、RAWでは、センサーで収集されたすべてのデータをポストプロダクションで使用することができる。
たとえば、キヤノン5D MKIIIでH.264/24fpsを選択して撮影する場合は1/18にファイルサイズを圧縮するが、これは0.5秒間にフレーム全体を1回だけ記録し、残りの11フレームは目に見える変化情報のみを記録している。即ち、全ての情報を記録しているわけではない。これを後処理で加工しようとしても、データはほとんど残っていないのだ。必要な露出補正や色の変更を行おうとすれば、画像が壊れてしまう可能性がある。
より高度なコーデックであっても、これらのリスクはそれほど低くならない。ウェーブレットなど時間ベースの圧縮を使用しない非圧縮ビデオは、多くの情報を得ることができるが、ビット深度(色情報)は失われる。非圧縮ビデオは通常10ビットで表示され1024ビットの階調が得られるが、12ビットRAWでは4,096の諧調が得られる。
RAWデータにはISOやホワイトバランスのデータは無く、ポストプロダクションで変更することができる。 RAWについてはKurt Lancaster氏の解説も併読されたい。
「RAWで撮るということは、画像に色を着けるということです。データが増えるほど、撮影時に発生するエラーは修正され、望むルック・アンド・フィールに加工することができます。」
RAWで撮る利点は多くあるうえ、実は見た目ほどコストはかからない。
ストレージ
ストレージに関しては、確かにRAWで撮影すると、多くの容量を消費する。 ARRI Alexa ARRIRAWの16:9映像は1時間あたり約605ギガバイト、URSA Mini Proは4.6k RAW(CinemaDNG RAW)で約648ギガバイト、C200は約512ギガバイト/時の記録容量を必要とする。特に、バックアップを取ったり、オリジナルのRAWビデオを保存しておきたい場合は、非常に多くのストレージが必要となる。ただし、ストレージが十分に無い場合は、次のような解決策がある。
RAWで撮影する場合、フッテージを処理する前に主要なカラー/露出の変更を行う。つまり、ハードディスクに記録する前に、必要に応じてファイルサイズを大幅に圧縮することができる。カメラには依然として高容量のストレージが必要だが、バックアップする容量はセーブできる。
また、解像度の選択や、カメラ自体を選ぶことによってもストレージ容量をセーブすることができる。 C200は従来のRAWフォーマットよりも3~5倍も小さいCinema RAW Lightフォーマットを採用しており、4Kに対応している。また、2Kや1080pでRAW撮影しても、同じように豊かな映像が撮影でき、ファイルサイズを小さくできる。
すべてのRAWカメラが非圧縮で記録する訳ではない。
人間の目で認識できる12ビットの色深度を持ち、センサーからの非圧縮データを記録する場合、記録されるファイルは12ビットの非圧縮RAWファイルになる。 ARRI Alexa XTは、この方法でRAWデータを記録するが、1時間あたり約1TBのファイルとなる。これは相当大きなファイルサイズだが、これを圧縮して記録容量を軽減する方法がある。
REDはRAWの扱いを独自の方法で開発してきたメーカーだ。 REDCODE RAW(.R3Dファイル)は、可変ビットレートウェーブレット技術でRAWファイルをさまざまなレベルに圧縮して、より小さいファイルにする。この開発は続けられており、12ビットから16ビットに改善されている。 RED .R3Dファイルはワークフローに合わせて最適化でき、ユーザーはフル解像度の映像情報を保持しながら、低解像度で作業することができる。
REDによれば、3:1のウェーブレット圧縮は論理的にロスレスであり、また、5:1や8:1は視覚的にロスレスとしている。これにより、ProResで撮影するよりも小さなファイルサイズでRAWを撮影することができるわけで、非常に画期的なことだ。これは純粋なRAW記録ではないが違いはほとんどなく、メリットの方が相当に大きい。技術の進歩により、RAW記録が手軽になってきているのだ。
ソニーのCineAltaシネマカメラも、外部レコーダーを使用して圧縮RAW記録が可能で、高いフレームレートと高解像度で記録できるという利点がある。上記のように、キヤノンはC200のCinema RAW Lightにも同様のアプローチを採用しているが、これは同社のC500やC700のものとは異なるものだ。
同社のC700は、ARRIのように12ビットの純粋なRAW記録を採用しており、どちらかと言えばARRIに近いRAWと言える。キヤノンのCinema RAW(.RMF)ファイルでは、イメージセンサーから出力されるデータはそのまま記録される。これらは大きな4Kファイルで、4:3で2.8KのARRIRAWより大きい。一方、Cinema RAW Light(圧縮RAW)はこれとは異なった考え方で、キヤノンがC700の旗艦カメラで採用している純粋なRAW記録とは別のものだ。
RAW記録はカメラで内部記録するとは限らず、外部記録することも可能だ。 しかし、この場合はコストも増加することになる。C500では外部レコーダーが必要だが、C200ではファイルサイズが小さく、内部記録が可能なので、実に経済的なRAWオペレーションができる。 REDとARRIも内部RAW記録が可能で、同じことが言える。一方、ソニーはカメラに外部レコーダーを接続してRAWを記録している。これはコストがかかるし、取り扱いも面倒なところがあるが、外部レコーダーは内部記録にはできないアドバンテージも持っているので、特定のユーザーにとっては意味があるだろう。
要点は、RAWは今や扱い難い記録方法ではないということだ。その利点は、さまざまなニーズやワークフローを使用しているユーザーに恩恵を与えるので、是非食わず嫌いをせずに試してみて欲しい。
思ったより時間はかからない
RAWは撮影から仕上がりまでの時間が短い用途には向いていない。この場合の用途とはニュース報道のようなものを指す。しかし、作品を創る映像制作者なら、早急な仕上がりを求められていてもRAWを使う価値はある。 RED .R3D ファイルならAdobe Premiere Proでネイティブサポートされているので、タイムラインに直接ドラッグすることができ、編集の感覚は普通のファイルフォーマットと全く同じだ。
RAW映像は、全く新しく、今まで見たこともないカラー領域というものではない。 撮影中にあらかじめ異なるLUTや色空間をモニターすることができるので、設定に手間取ることは無い。 小規模な撮影なら、あらかじめルックを設定しておき、カードがいっぱいになったらすぐにその設定で処理すればよいのだ。
新しいプロジェクトごとに特定の設定を行う時間が無いという意見もあるだろう。その場合は、気に入った設定を一つ見つけて、すべてのプロジェクトのデフォルトにするとよい。それだけでもRAWが提供する豊かな映像が得られるし、時間があれば好みに合わせて更に調整すれば良いのだ。
RAWで撮らなければならないということではない
Digital Bolex(R.I.P)やREDカメラで撮影している場合を除き、RAWで撮影できるカメラは別の録画フォーマットも持っている。RAWが適していないプロジェクトなら、他のフォーマットを使用すればよい。 RAW撮影が適しているプロジェクトなら、ポストプロダクションで柔軟性を持つことができるということだ。
RAW撮影の価値とは?
RAWで収録すると、豊かで美しい色を創り出せるほか、設定の間違いを修正することもできる。 またISOやホワイトバランスを調整することができ、他のコーデックでは得られない自由な創造性が得られる。それにより、妥協することなく、自分の望むルックを創ることができる。もし考えが変わったら、元に戻してその映像を完全に異なったルックにすることもできる。 RAWフッテージは、フィルムのネガのデジタル版だ。一度RAWの自由な世界を知ったら、二度と他のフォーマットに戻れなくなるだろう。
フジヤエービックのショップサイト