数週間前になるが、iPhone SEとアプリのFilmic Proで撮影してみた。Resolveでグレーディングした結果もお見せしよう。
二つのことに感動した。まず、Filmic Proは多くのコントロール項目を持っていること。もう一つは、グレーディング結果が極めて良かったことだ。先週、ブログでも投稿したが、ここではもう少し踏み込んで解説しよう。
Filmic Proという名を聞いたことがあるだろうか? ポケモンGOよりもハマるかもしれない。
もっともFilmic Proのようなアプリは他にもある。例えば Mavis がそうだ。しかし、今はFilmic Proだろう。現在、Filmic Proはアンドロイド上でも可能だが、私はiOSしか使っていないので、この記事はiPhoneでの使用レポートになっている。ご了解いただきたい。
Filmic Proとは?
Filmic Proはモバイルフォンのビデオ撮影アプリで、プロのモバイルビデオクリエーター向けに作られたものだ。パラメーターのコントロールやカスタムプリセットが設定できるが、おそらく最も有用なのは記録ビットレートを高くできることだろう。
「Filmic ProはZacuto: Revenge of the Great Camera Shoot Out.において、ブラインドテストで$5,000のソニーFS100や$13,000のキヤノンC300をかわし、2x Video camera App of the Year に輝いた」
これは実に興味深いことだ。
皆さんはサンダンス映画祭でヒットし、後にMagnolia Picturesによって劇場配信された映画“Tangerine:タンジェリン”をご存知と思う。この映画はFilmic ProとiPhone 5s、それとちょっとしたアクセサリーで撮影されたことがニュースになったのだが、これについては、後でもう一度触れる。
その他の実績
- アップルの“Your Verse” と“iPad Filmmaker’s”、そしてWWDC 2015 Keynote videosに特集される
- ベントレーモーターの“Intelligent Details”ビデオキャンペーンを収録(behind the scenes video here)
- Tap! MagazineでBest App Ever finalist
- Gizmodo Essential App
- comのエディターズレビューで五つ星
- com/TechlandでApp of the Week:
- Wired, Film Riot, MacworldでEditors Choice
下のビデオはベントレーモーターのIntelligent Details。 (iPhone 6 + Moondog Labs Anamorphic Adaptor)
Filmic Proの動作
Filmic Proは、たった$9.99で購入できる。iTunesのApp Storeからダウンロードし、インストールするだけで撮影準備完了。業務用カメラのファームをアップグレードするよりよほど簡単だ。
Filmic Proはモバイルフォンのカメラをマニュアルコントロールでき、プロレベルの映像を撮影することができる。機種によって機能が多少異なるが、最新のiPhoneならほぼ全てのコントロールが可能だ。
主な機能(iOS用Filmic Pro 5)
- iOS9に最適化
- アップルのSwift 2対応の新高速コード
- 24,25, 30, 48, 50, 60fpsに対応したオーディオフレームレート
- 60~240 fpsのハイスピード記録(iPhoneの機種による)
- 4K (UHD)/3K/2K (最新iPhoneのみ) /1080/720HD/540SD記録
- 4K (UHD) /8-bit/4:2:0/H.264/100Mbps/Quicktimeで記録
- 以下を含む、全解像度の各アスペクトレシオに対応
- Cinemascope (2.59:1)
- Super 35 (2.35:1)
- Letterbox (2.20:1)
- Super 16 (1.66:1)
- 17:9 Digital Cinema Initiative
- 以下のフルマニュアルコントロールが可能
- 色温度
- ティント
- ISO
- シャッタースピード
- 露出補正
- フォーカス
- フォーカススピード設定
- ズームスピード設定
- ユーザーインターフェースの新設、改善
- スローモーション、ファーストモーションのカスタマイズ
- 17:9 デジタルシネマアスペクトレシオ
- 外部オーディオ入力デバイスに対するCore Audioの改善
- 新しくなったピークリミッターとオーディオフィルター
- 非圧縮、あるいは圧縮オーディオ(AIFF, Linear PCM or AAC)
- オーディオメーター
- オーディオゲインコントロール
- ヘッドフォンモニター
- ステレオレコーディング
- サードパーティーの35mmアダプターに対応
- Moondog Labsのアナモルフィックアダプター(2.40:1)に対応
知っておくべき重要項目
以下はiPhoneでビデオ撮影する場合に知っておくべき重要なポイントである。
露出とシャッタースピード
iPhone(他のスマホも同じだが)のレンズは固定。iPhone6s、6s plus、そしてSEはf2.2固定だ。即ち、露出コントロールは、シャッタースピードかISO設定で行うことになる。iPhoneのセンサーのベース感度は、ピクセルのピッチから考えると、最小のISO25と思われる。ざっくりとした計算だが、例えば日中の太陽光下なら、ISO25では、f2.2固定ならシャッタースピードは少なくとも1/2000になる。これは静止画なら良いが、動画なら24fpsで4.32°のシャッターアングルに相当する。
一方、動画をシネマティックに撮る時によく使われる24fps時の通常のシャッターアングルは180°、これはシャッタースピードでは1/48秒に相当する。即ち、このような強烈な太陽光下では6ストップの低減、即ちND1.8 が必要ということになる。自分ではまだiPhoneで濃いNDを試したことはなく、ND0.8 (約3ストップ)では試してみたのだが、酷いカラーシフトとIR(InfraRed:赤外線)の弊害が目立った。IRカットフィルターも試してみたいところだ。
シーンコントラスト(ライティング)レシオ
iPhoneのダイナミックレンジをきちんと計っていないが、7~8ストップあたりと思われる。きちっとコントロールされた照明下や早朝や夕方の太陽光下では問題ないが、昼間の太陽光下ではハイライトがクリップされたり、影の部分がシルエットになってしまったりと、問題が出るだろう。
上の写真で、ハイライトがクリップされているのが分かると思うが、グレーディングされても何ら補正されていない。これはドバイの夏、日中の太陽光下で撮ったもので、かなり厳しいコントラストではあるが、やはりiPhoneのダイナミックレンジの限界が見て取れる。
低照度特性
日没後にも撮影してみたが、使えるショットは撮れなかった。低いベースISOからも推察できるように、低照度特性は極めて制限されたものだ。iPhoneではこのあたりが限界だろう。
アクセサリー
これまでのテストで、iPhone SEには特にケースやレンズなどアクセサリーは使っていないが、便利なオプションがいろいろなメーカーから発売されているので、ここでは以下の二つを紹介しておこう。
Moodog Labs Anamorphic Adaptor – これは映画「Tangerine:タンジェリン」でワイドスクリーン用に使われたアナモルフィック(x1.33)レンズ。
ExoLens with Optics by Zeiss – ツァイスの3本組レンズセットで、広角、テレフォト、そしてマクロから構成される。広角のみでも可能。
ポストプロダクションとカラー
今回一番驚いたのはDaVinci Resolveでの作業だ。8bit、4:2:0のH264の素材を扱ったことがあり、結果が芳しくなかったので、正直、今回もあまり期待していなかった。
しかし、iPhoneの映像は実にバランスよく、目立った問題は特になかった。最初に言っておくと、自分はUHDタイムラインで編集しないし、iPhoneからUHDでの配信もしない。それよりもResolveがどれくらい高画質な1080pを出力できるか、そしてもともと1080pで収録されたものよりどれくらい高画質かに興味があったのだ。
結論から言うと、素晴らしいものだった。100Mbpsの4K UHDの映像を200%にズームして1080pのタイムラインで見たものは、実にシャープでクリーンだ。私のサイトで4K UHDを150%と200%にクロップした映像が見られるので、参考にして欲しい。
モバイルフォンによる撮影の将来
Filmic Proは、モバイルフォンでのビデオ撮影というものに対する私の思い込みを完全に打ち壊したと言える。Chase Javis氏が「一番良いカメラを、あなたは既に持っている」と言っているように、モバイルフォンのカメラは日々進化しており、実にエキサイティングな分野だ。