ASC (American Society of Cinematographers: 全米撮影監督協会)での打ち上げイベントが終わるのが待ち遠しかった。この後、シグマの新しいハイスピードシネマズームのレビューをする予定なのだ。カバンの中には、18-35mm T2.0と50-100mm T2.0がある。いずれもEFマウントだ。私の信条は、機材をテストするには実際に何か作品を作ってみることだ。 時間は72時間しか無いので、数人の友人とシンガーソングライターTolan Shawを主人公に、これらシネマズームでミュージックビデオを撮影することにした。
今は手頃な価格のシネマズームレンズの黄金期と言えるのではないだろうか。キヤノンのCN-E 18-80mm T4.4サーボズームは5,225.00ドル、ZEISSやAngenieuxのようなメーカーのレンズでも10,000ドルで手に入る。かつてはシネマズームレンズパッケージを個人で購入するなどということは考えられなかった。それが今やシグマのズームは、3,999ドルだ。個人で1個や2個持っていても不思議ではない。しかし、この価格で性能は大丈夫なのだろうか?
最初に断っておくが、これは技術的なテストではなく、現実にこれらのレンズを使って撮影するフィールドテストだ。まず、2本のズームレンズを手にとって見ると、安物ではないことがすぐに分かる。両方とも金属製の筐体で、ズーム範囲でT値は変化しない。 T2.0は、Angenieux EZシリーズやZeiss LWZシリーズと比較すると、この価格帯で最も明るいレンズだ。一方、トキナはシグマと同じ価格帯で2本のATXブランドの広角シネマレンズをラインアップしているが、どちらもT3で、これまでのところ16-28mmのみ出荷されている。
さて、Rin Ehlers Sheldon監督によるShawの新しいシングル「Never Known」のミュージックビデオ撮影に取り掛かった。18-35 T2.0 と50-100 T2.0をカメラにマウントしミュージックビデオを6時間にわたって撮影した。 新しいシグマシネマズームをマウントしたカメラはRedのEpic DragonとEpic Weaponだ。
詳細はこちらのサイトで見ることができる。
今回は暗い環境での撮影がポイントだった。2本のレンズは、ほとんどT2.8で使い、幾つかのショットをT2.0で撮っている。時には、両方のカメラをISO1000に設定、Weaponは1ショットを1250で撮っている。このショットにはNeat Videoのプラグインでノイズリダクションを施している。
アシスタントカメラマンのJose ValdezはBartechのワイヤレスフォローフォーカスを使ってフォーカシングする。Joseがセットされたレンズを見て最初に発した言葉は「え!光っているよ!」だった。レンズのマーキングには発光塗料が使用されており、実に印象的だが、もっと重要なことは、このマーキングは暗い環境でも読み取ることができることだ。ここまでは順調だ。 Bartechのフォローフォーカスモーターは、他のレンズでスリップしたことがあるのだが、今回シグマの0.8mmギアのフォーカスリングではそのようなこともなかった。
シネマズームは、往々にしてプライムレンズと比較すると重いが、シグマのズームレンズも約1.9Kgの重量がある。これは、約2KgのZeiss 21-100 T2.9-3.9軽量ズームとほぼ同じ重さだ。もちろんもっと軽いほうが良いのだが、だからと言って金属の外筺によるこのレンズの質感の良さは捨て難い。18-35をマウントしたRED Epic Weaponを手持ちで1日中撮影した。 さすがに1時間もすると多少辛くなってきたが、それでも非常に扱いやすいものだった。今までもEasyrigのようなサポート機器が欲しいと思ったカメラやレンズは数多くあるが、今回の撮影では、特にそこまでは必要ないと感じた。
操作性
これに関しては特に驚くようなことはないが、ドキュメンタリーをワンマンで撮影する場合には、サーボが有用だろう。私はずっと高価なフジノンの19-90mm ZK4.7×19でドキュメンタリーを撮影してきた。レンズのフォーカスリングとアパーチャリングの間隔が同じであれば、SIGMAブランドのサーボではないにしても、サードパーティのサーボが市場に出る可能性があるのだが。まあ、今回は、これら2本のレンズに慣れてしまえば、特に問題なく操作できた。
シグマART、特にその50mmは、今や撮影には必ず携帯するレンズだ。ARTレンズが、これらのズームレンズのベースになっていることは明らかだが、フォトレンズだということを意識したことがない。それこそ、分解して中を見てみないと、それとは分からないだろう。 手頃な価格である理由はそこにあるのだが、決して見かけだけの変更ではないということはよく分かる。 両方のレンズはT2.8で非常にキレが良く、50-100の同社のフォト用レンズと比較して、フォーカスの迷いも少ないと感じた。
ボケ
この作例はカリフォルニアにあるお気に入りのパイショップの屋外で撮影したものだが、これに見られるようにボケはT2.8で素晴らしくARTレンズに引けを取らない。この写真はRED Epic Dragonで2K/100mm / T2.8で撮影している。(残念ながらWeb掲載用に圧縮しているので本来の画質とは異なる)
レンズフレア
フレアは極めてうまくコントロールされており、正直、Zeiss CP.2プライムレンズよりもはるかに自然な感じと思う。全く文句はないレベルだ。アナモフィックではないが、“JJ Abrams approved”と呼びたいほどだ。(JJ Abramsはスポットライトやフレアなど光の効果を用いた作風が多く、「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」の監督として有名)
口径食(周辺光量落ち)
RED Epic Dragonでは50-100 T2.0で目に見える周辺光量落ちは認められなかったが、18〜35mmを6Kで使用し、18mm以上にズームすると光量落ちが見え始めた。従って6Kや8Kでの撮影には18-35mmを推奨しないが、シグマはRED EpicのHeliumセンサーに対応するフルフレーム24-35mm T2.2を間もなくリリースする予定だ。もちろん、多くの場合は8Kや6Kで撮影しないので、これらのレンズはSuper35mmセンサーでの4Kや5Kの撮影では、全く問題ないだろう。
どちらのレンズも絞りはT2.0~T16で、正午のビーチでの撮影ではT22でも露出オーバーだった。ねじ式NDフィルターとか、(RED Epicには装備されてないが)カメラのNDとか、またはフィルター付マットボックスなどNDフィルターの手は色々あるのだが、今回の撮影ではその時間が無く、また手近にNDフィルターも無かったので、T22で撮らざるを得なかった。両方のレンズともフィルター径は82mmだ。カメラを手持ちする場合はこれが最適だろう。コマーシャルやドラマでは照明やカメラの設置で問題は無いのだが、この価格帯のズームを購入する多くの撮影監督の仕事ではこのようなことも重要になってくる。なお、50-100 T2.0の0.95mの最短撮影距離は少し長すぎる感じがするが、まあ、マクロレンズではないので良しとしよう。
最後に
購入する価値は十分にあるだろう。
競争が激化しているシネマレンズ市場で、シグマは他のメーカーに先立って価格破壊的なレンズを生み出している。多くの競合よりも安価なのにもかかわらず、安物に見えないのが素晴らしい。しかも、はるかに高価なレンズに匹敵する高品位な映像を約束する。 シグマはまた、2017年のビジョンで、フルフレームで僅かに暗い(T2.2)ズームやプライムレンズのセットを発売する予定だ。実に待ち遠しいことだ。
フジヤエービックのWebショップ
Special Thanks: Rocking Horse Ranch, The Studio Encinitas, Tolan Shaw, Rin Ehlers Sheldon, Matt Lopman, Jose Valdez