2020年9月に内部XAVCイントラコーデックを使用してFX9のラボテストを行ったが、その後新しいファームウェアバージョンが発表され、XDCA-FX9拡張ユニットとAtomos Shogun 7レコーダーを使用して、FX9からRAWを出力する機能が可能になった。そこでもう一度ラボテストを行うことにした。
XDCA-FX9拡張ユニットを使用すると、FX9から16ビットのリニアRAW信号を出力できる。ただし今のところこの信号を直接記録できるレコーダーは市販されていない。
ただしAtomos Shogun 7はこの16ビットのリニアRAWを入力し、12ビットのRAWに変換するため、ProRes RAW HQファイルの記録が可能になる。
したがって、この組み合わせでFX9センサーから良好なラティチュードとダイナミックレンジを取り出せるか非常に興味がる。
6Kセンサーで4K RAWを撮影
FX9は6Kセンサーを搭載しているが、XDCA-FX9拡張ユニットを使用したフルセンサーRAW出力の解像度は4128×2192で、DCI4Kより少し多い程度にすぎない。したがって、ダウンサンプリングなどの画像処理が行われている。
ポストプロダクションでのProRes RAW処理
さて、これまでのところ、DaVinci ResolveはProRes RAWファイルをサポートしていないので、Adobe PremiereProを使用する必要があった。 Windowsの場合、最新バージョン14.8では、ファイルをインポートして、SGamut3.Cine / SLOG3スペースに変換できる。
Xyla 21ステップチャート4K(4128×2192)ProRes RAWHQファイルをProRes 4444 XQへ最大のビット深度でエクスポートした。その後、DaVinci Resolveで、IMATESTのダイナミックレンジの分析用にTIFFファイルをエクスポートした。
ラティチュードテストでは、PremiereProの露出スライダーを使用して、露出オーバーと露出アンダーのショットを基本露出に調整した(下の画像の「Belichtung」を参照)。ただし残念ながら、今のところPremiereProでできることはここまでで、ホワイトバランスの調整やRAWダイアログのコントロールはできない。
また、露出補正と組み合わせて、DaVinci Resolveでさらに分析するため、ファイルをProRes4444 XQとしてエクスポートする前に、PremiereProのRec709 ALUTにSGamut3.Cine / SLOG3を適用した。
4K ProRes RAWにCPU / GPUは効果的かという問いに、答えは明確に「No」だ。参考までに、GeForce RTX3090カードを搭載したRyzen3900x Windows PCでは、上記の4K PremiereProタイムラインを再生時に、RTX 3090GPUカードは5.8GBのメモリ使用量を示し、 8%の負荷に留まっている。
ProRes RAW ISO800時のFX9のダイナミックレンジ
ダイナミックレンジのテスト方法については、こちらを参照いただきたい。
ISO800では、Xyla 21ステップチャートの波形プロットはノイズフロアの上に約12ストップを示しており、13番目と14番目のストップはノイズフロア内にまだ表示されている。
IMATESTは、信号対雑音比(SNR)2で11.5ストップのダイナミックレンジを示し、SNR = 1で12.7ストップを示している。
上記のIMATESTシートの中央にあるグラフを見ると、SNR = 1(青)の線を超えてノイズフロアでストップが識別される。ProResRAWを使用すると、ノイズからそれらのストップを切り分けることができる。(以下のセクションを参照)
これは、内部XAVC Intra 422コーデックを使用した2020年9月のラボテストとまったく同じ結果となっている。即ち、内部XAVC記録に対してノイズフィルタリング処理が行われていないことを明確に示している。
ProRes RAW ISO4000時のFX9のダイナミックレンジ
2020年9月のラボテストですでに述べたように、ISO4000時では、ISO800と同じ結果となっている。したがって、2つのネイティブISO値を切り替えても画質に影響はないことが分かる。
ISO4000でのProResRAWの波形プロットは次のとおり。
ISO4000の場合、SNR = 2で11.5ストップ、SNR = 1で12.6ストップとなった。また、ここでは、ノイズフロア内の中央のグラフの青い(下)線の上にさらにストップを識別できる。
ProRes RAW ISO800時のFX9ラティチュードテスト
前述のように、ラティチュードは露出オーバーまたは露出アンダーで撮影し、正規の露出に戻した場合の色とディテールを保持するカメラの能力値だ。
なお、前回からテストを拡張して露出オーバーの場合のテストも加えている。従来通り被験者の顔の波形モニターで最大輝度値が約60%を基本露出としている。したがって、「上」はベース露出基準より上のストップ数を示し、「下」はベース基準より下のストップ数を示している。
そこから、シーンを露出オーバーおよび露出アンダーにする。
FX9では、スタジオライトをf1.4、ISO800、360°のシャッター角度にし、顔が赤チャンネルでクリップし始めるところを調整する(以下のRGB波形プロットを参照。赤チャンネルが平たくなり始め、カラーチェッカーの白がクリップされている):
ここから、レンズをf2、2.8、…からf8に絞り、さらにシャッター角度を180°、90°、45°、22.5°に調整する。要約すると、ベース露光シーンの上に4ストップと下に5ストップがある。
従来のテストの方法を踏襲し、これが基本的な露出シーンとなる。f5.6で、顔は60%の輝度を少し下回っている(グレーディング前、SLOG3スペース)。
4ストップ露出オーバーでは、大きなカラーシフトは見られない。また、3ストップ露出アンダーでも同じ結果となった。
FX9の2020年9月のラティチュードテストと同じ方法で、3ストップアンダーで標準に戻すと、ノイズが目立ち始め、画像は緑がかった色になってくる。
ただし、ProResRAWのノイズは、クロマノイズが目立つ内部記録のXAVC422 Intraファイルよりも細かく分散されている(9月のテストを参照)。したがって、ノイズリダクションで良好な結果が得られる。
4ストップアンダーではノイズが多くなり、画像はさらに緑がかり、ProResRAWファイルでもクロマノイズの大きなパッチが現れる。
しかしDaVinci Resolveで時間的および空間的なノイズリダクションを使用すると、画像に影響を与えるがノイズを除去することができる。(以下を参照)
画像は明らかに限界に達している。
即ち4ストップアンダーでノイズリダクションを行った画像はまだ使える。これがProResRAWの利点だ。
内部XAVC 422イントラコーデックを使用した9月のテストでは、4ストップアンダーでは、ノイズリダクションしても救済できなかった。クロマノイズが大きいからだ。これは、250mbit / sとビットレートがかなり低いために発生した不要効果のせいかもしれない。
一方ProRes RAWのノイズは一般に細かい粒子のタイプだが、これはノイズリダクションによって簡単に軽減できる。
参考に5ストップアンダーの画像を標準に戻した画像を載せておく。
この場合は、もはやノイズリダクションでも救済できない。
要約すると、ProResRAWを使用する場合、FX9のラティチュードは上下各4ストップで、計約8ストップとなる。
これは、フルフレームのキヤノンC500MKIIやパナソニックのS5に並び、非常に良い結果だ。これに近いAPS-Cカメラでは、キヤノンC300MKIIIとBMPCC6Kがある。
FX9 ProRes RAWで撮る意味
これは、macOSとWindowsのどちらを使用しているかによって異なる。ポストプロダクションでどれほど処理するかによる。
前述のように、DaVinci ResolveはProRes RAWをサポートしていない。 FCPX(macOS)と Avid Media Composer(macOSとWindows)は、ProRes RAWをネイティブにサポートしている。After EffectsとPremiereProもサポートしているが、基本的な露出補正とログ変換に限定されている。
そしてProRes RAWで撮る場合、XDCA-FX9拡張ユニットとAtomos Shogun 7のコストが必要になる。
プラス面では、12ビットRAWコーデックによりポストプロダクションでの柔軟性とラティチュードが向上する。内部XAVCイントラコーデックと比較してラティチュードが約1ストップ多くなる。