cinema5D Labでは、ダイナミックレンジ、シャープネス、ローリングシャッターなどの詳細なカメラテストを行っている。このテストについて、方法や考え方を各項目について解説したい。
最初の項目として、ダイナミックレンジの測定について解説しよう。この記事では、ワークフローやテストの考え方について説明し、読者の参考資料として役立てることを目的としている。
ダイナミックレンジの測定
筆者の知る限りでは、ビデオカメラでの業界標準は存在せず、最も単純な定義でさえ漠然としたものだ。(デジタルスティルカメラではISO 15739:2003規格がある)
各カメラメーカーは独自で測定し、公表しているが(あるいは非公表)、これらは直接比較できる数字ではない。
カメラのダイナミックレンジはユーザーにとって重要な要素であるため、cinema5D Labの目標は、市販されているカメラを直接比較できる独立した基準を確立することと考えている。
カメラのダイナミックレンジとは?
カメラのダイナミックレンジは、カメラが撮影できる最大輝度と最小輝度の比として定義することができる。
とりあえず分かったような気になるが、これをどのように数量化するのだろうか?
明るい部分のディテールを撮像するカメラの能力ははっきりしているが、シャドウ部に関してが問題だ。暗部ではノイズが急速に発生し、どの程度のノイズなら許容範囲かという見解が異なる。ここでは、センサーノイズとSNR(Signal to Noise Ratio)について簡単に説明する。
ノイズは、ピクセルの輝度の実際の輝度値と比較して、ランダムな変動だ。したがって、特定のベース輝度以下では、画像がノイズに埋もれてしまい、暗い部分のディテールが正確に撮影されているとは言えない。
ISO 15739:2003規格は、信号対雑音比1をダイナミックレンジ測定のしきい値と定義しており、一定の指針にはなる。しかし、経験によれば、ビデオカメラの場合、信号対雑音比2(または雑音の二乗平均平方根値RMS = 0.5 = 1 / SNR)でも「使用可能な」レベルと言われている。
ARRIが公表しているALEXAのダイナミックレンジ(14ストップ)は、0.5 = 1 / SNR に基づいたcinema5Dの以前の計測結果と近いものなので、このしきい値を引き続き使用することにする。
テスト手順
cinema5Dでは、暗室でDSC labのXyla 21バックライト透過チャートを使用しており、このダイナミックレンジ範囲は21stopだ。
このチャートはレンズのフレアを避けるため水平軸からオフセンターされており、以下の方法で測定する。
ハイライトの左端では、最初の2つの枠をハードクリップし、2番目の枠がクリッピングの先端に来るところで停止する。
次に、ダイナミックレンジを特定する2つの方法がある。
a)波形プロットおよび記録されたパートの画像の目視検査
b)IMATESTソフトウエアの使用:ビデオファイルからフレームをエクスポートし、高度な画像解析アルゴリズム(http://www.imatest.com/docs/stepchart/を参照)を使用してダイナミックレンジの数値を計算するIMATESTソフトウェアで実行。
透過テストはダイナミックレンジの最もシンプルで正確なテストだが、その範囲でのカメラのカラーとディテールに関する情報はほとんど無い。したがって、それは、カメラについての判断を下す1つの情報にすぎない。
目視検査とIMATESTソフトウェア
最初の枠がクリップされても、2番目の枠は範囲内にあるため、この2番目の枠から視覚的に数え始める。枠2から枠3が最初のstop、枠3から枠4へが2番目のstopといった具合だ。ここまではよいだろうか。
シャドー端では、ノイズ面から出ている最後の識別可能なstopまでを数えるが、この目視は難しい。
下記の図2のソニーFS7(内部SLOG3 10bitを8bitにスケールされた値)を参照いただきたい。これは、過去の測定を確認するため、他のカメラを含め再度テストしたものだ。
ノイズは見やすいよう赤色の線で示されており、ノイズレベル以上の識別可能な枠を数えると、約12stop、あるいはもう少しあることが分かる。
ただ、視覚的な方法には、例えばノイズレベルの位置を含め、いくつかの曖昧さがある。これに対し、IMATESTソフトウェアは非常に便利だ。IMATESTを使用したワークフローは以下の通り。
編集システムの影響を避けるため、FFMPEGライブラリを使用し、ビデオファイルから直接高品質のIフレームを抽出する。
ffmpeg -i videofile.mov -vf “select = eq(pict_type \、I)” -vsync vfr framegrab%04d.tiff
これらの高品質のTIFFファイルはIMATESTにインポートされ、領域が選択される。
MATESTは高度なアルゴリズムを使って各枠を分析し、信号対雑音比を計算し、下のチャートのように、幾つかのSNR値に対するダイナミックレンジを表示する。
ソニーFS7の場合、IMATESTは1 / SNR = 0.5の場合12.1stop、SNR値が1の場合は13stopのダイナミックレンジとなっている。また、17.7個の識別可能な枠を特定した。cinema5DではFS7のダイナミックレンジは、UHD(3840×2160)で12.1stopとしている。
イメージダウンスケーリング
イメージスケーリングに関しては、FS7の映像をUHDからフルHD(1920×1080)にダウンスケールすると、約0.3stopダイナミックレンジが拡大され、12.4stopになる。ダウンスケーリングは、4つのUHDピクセルを1つのFHDピクセルに平均化するため、ノイズが低減する。 4Kで撮ってFHDで仕上げる場合のメリットでもある。
ダウンスケーリングとダイナミックレンジの関係に関しては、隣接する4つのピクセルの信号値は高い相関度(輝度はほぼ同じ)を持つが、一般的にノイズはランダムなので相関は無いはずだ。
さて、3840×2160の4つのピクセルを1920×1080の1ピクセルに統合(または平均化)することによって、信号値はほぼ同じレベルに留まるはずだが、ノイズは無相関なのでノイズ値は減少する。数学的には平方根の逆数倍になる。
したがって、4画素を1画素に統合することにより、信号対雑音比(SNR)は2倍(√4=2)になる。輝度が一定の場合、より高い信号対雑音比であれば、より高いダイナミックレンジとなる。
なお、cinema5Dでのスケーリングは編集ソフトウェアの影響を避けるため、ffmpegライブラリ(libswscale)を使って行われる。
IMATESTが優れている点は、分析が主観的なものではなく、純粋な数学に基づいているという事実だ。また、各枠がはっきりと撮影されておれば、ステップチャートをアンダー/オーバーエクスポートすることができ、IMATESTは数パーセントの誤差で同じ結果を得ることができる。cinema5Dでは、このソフトウェアでソニー FS7、α7SII、Blackmagic Pocket Cinema Camera、GH5、GH5s、FUJI X-T2 / Xなどの多くのテストを行い、すべて過去の結果と合致することを確かめた。
結果を記した表は以下の通り。(ARRI ALEXAの値は過去のテストの値で、参考値)。
各メーカーはおそらく、より厳密なISO15739:2003 SNR = 1定義を使用しているだろう。上記の結果から分かるように、最高解像度でのこの定義では、パナソニックGH5は12stop、Blackmagic Pocket Cinema Cameraは12.5stopとなる。
なお、記事の冒頭でダイナミックレンジの定義は、カメラが撮影できる最大輝度と最小輝度の比と記した。IMATESTは識別することができる枠の最大数である「枠範囲」値も出力する。(図5には示されていない)。例えば、GH5sの値は約14.7の検出枠で、FS7は17.7だ(図4参照)。
したがって、カメラのダイナミックレンジの値が記載されている場合は、ノイズしきい値も表記されている場合にのみ意味をなすことも知っておいて欲しい。
最後に、IMATESTソフトウェアの客観的な結果も相対値になることを忘れないでいただきたい。 高度なコーデックを備えた一部のカメラでは、高度なポストプロセッシングでノイズから映像のディテールを分離することができる。 従って、カメラのダイナミックレンジの値だけにこだわるのも正しい判断ではない。結局は、カメラを使うユーザーによるところも大きいのだ。
我々はcinema5D Labの情報が読者の参考になることを願っており、これからもカメラレビューで積極的にLabを使っていきたいと考えている。